第三章:セントラル家・実験の庭
1話 どうかな?農地のご提案①
「はあ、暇だなあ」
カツサンドを考案してから3日が経った。
この3日間、自分の慢心さにいやというほどに後悔した。
己が世界を変えられるとまで過信した。
全て、周りの人の温かさに守られていただけだったのに。
けど、それでも、自分のやったことは間違いじゃないと思う。
肉が主食で、野菜が軽視されていて、そんな世界はよくないと思う。
せっかく拾った命だ。
人のために使わなくてどうするんだ。
とはいえ、周りからの目は食堂に毎日行けてた時と比べて2段階ぐらい冷たくなったようにも思う。
朝、リベラルとお散歩がてら畑の様子を見に行こうと外に出ると、ひそひそ声がちらほら聞こえたものだ。
そんなときでもリベラルは優しい。
「ね、わたしおもうんだ」
「ん?どうしたの?」
「チヒロが来るまで、卵を食べるとか考えたことなかったけど、命を支えるための食材を使うことは悪いことではないって、思えたんだよね」
「なに、急に」
「ん~別にこれがどうとかじゃないけどさ!少なくともわたしはチヒロが来てから風邪の治りもはやくなったし、ご飯の時間が待ち遠しくなったよ!」
抱きしめた。リベラルを丸ごと抱きしめた。
なんていい子なんだ!
なにするの~とむずむず動いてたリベラルだったけど、私がちょっと鼻をぐずって鳴らしたら動きが止まって、ハグをしてくれた。
そんな私たちの様子に、行きかう人たちは困惑の目を向けてきたけど。
あとは、またもうひとつ気がかりなことが浮上した。
リッタが、野菜の育ちが悪くなってきた気がするというのだ。
「この野菜たち、魔法で成長させてる分、土地が疲れちゃってる気がするのよ。最近、前より育つのが遅くなった気もするしね。」
「え……それって、この畑、使えなくなるってこと?」
「まあ、まだまだ大丈夫だとは思うけど、いずれそうなる可能性はあるわね。魔法って便利だけど、使いすぎると必ずしっぺ返しが来るもんよ」
なるほど、間違いない。
そもそも聖女がいなければこの国の均衡は一気に保たれなくなる。
もう何代も聖女は存在し続けているが、突然現れたという聖女の存在は、突然失っても不思議ではない。
私が生きている間に起こるかもわからないが、地球でも叫ばれていた、持続可能な社会を作るに越したことはない。
そう思って、営業終わりの食堂に行ってみた。
「そういえば、リチャトさん、この辺って昔から農業してたんですか?」
「ああ、してたよ。ただ、魔法なんて便利なもんができる前は、みんな工夫しながら畑を耕してたもんさ。」
「工夫って?」
「古い話だけどな、土を休ませるために畑を移動させたり、動物のフンを使って肥料を作ったりしてたらしい。詳しいことは、村の資料庫にでも行けば出てくるかもしれないな。」
「村の資料庫?そんなのあるんですか?」
「ほこりまみれの古い本ばっかりだけどな。ちょうど謹慎中だし、暇つぶしにはいいんじゃないか?」
その数時間後には私は資料庫にいた。
煙たがれている今、案内されるのにも時間がかかるだろうと思っていたが、資料庫の管理は役場のようで、リッタが簡単に通してくれた。
ちなみに、ウィンク付きで。
上のほうにある窓から降り注ぐ一筋の光から、きらきらとほこりが光る。
一見幻想的ではあるが、そのきらきらはここに何年も人が足を踏み入れていないことを指す。
古い書体で『農業』と書かれた書棚に行き、何冊か見繕う。
それを家に帰ってから読み解く、そんな3日を過ごした。
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