18話 さくっと!お手軽サンドウィッチ⑤
まずは、たまごサンド以外のものを考案しなければならない。
肉主軸のこの国でやはり受け入れられるのは、カツサンドあたりだろうか。
とりあえず、棚の奥からずるりと瞬間乾燥装置を出してみる。
あまり使われていないのか、少しほこりをかぶっていた。
「ようし、とりあえずやってみるしかない」
気を入れ直し、あらかじめ用意してあったオンドクルの薄切り肉に卵とパンの刻んだものをつけてなじませる。
それらをそうっと瞬間乾燥機にいれれば、下準備は完了だ。
おそるおそる、開始のボタンを押す。
ブゥン……
鈍い音が響き、瞬間乾燥機が動き出す。
これは、どうやら炎と風の魔力を動力としているらしいが、原理はいまだに私には少し難しい。
ピンッ
かわいらしい音を鳴らし、瞬間乾燥機が動きをとめた。
蓋についた水滴が垂れないよう、一気に開ける。
ぶわりとお肉の豊潤な香りがあたりを包み込み、思わず鼻を鳴らす。
「よし、あとは完成まで一気にやろう」
つぶやきとともに、すぐに行動に移す。
あつあつのカツをさっとだし、包丁で衣を撫でてみる。
カリッカリリという小気味よい音が響く。
あらかじめふわふわにしておいた黒パンをさっとまな板の上にだし、何枚かレタスを敷く。
その上に、先ほどのカツをふわりと置くと、かなりサンドウィッチらしい形になってきた。
「これではさんで、蜜蝋の紙で巻いていくんだね」
突然背後から声がして、ひいと小さく悲鳴上げてしまう。
振り返ると、腕組みをしたリチャトさんがいた。
「何驚いてんだい、いつまでも新作をあんた任せにはできないしね、ああいうことだって起こるし、何よりあんたがいなくなって困るのはあたしだ」
そういいながらリチャトさんは手早くサンドウィッチを紙でくるんでいく。
現実味のある言葉に、料理で高揚していた気分が一瞬しおれたが、リチャトさんに負けていられない。
「私が謹慎している間、困んないでくださいよ、それで呼び出されたらたまったもんじゃない」
「そんな、呼び出さなくてもあたしだよ?なめんじゃないよ」
軽口をたたいているといつのまにかサンドウィッチが完成していた。
「これで完成だね、さ、食べてみよう」
「はい」
これでしばらくリチャトさんとの共同作業がないと考えると少し寂しい気持ちになりながら、取り分けてくれたサンドウィッチにかぶりつく。
じゃくり、サクッ、ふわ
様々な触感が口の中を伝わる。
何もソースなど塗っていないので、味は薄めかと思いきや、オンドクルの持ち味が活かされ、なんともジューシーな仕上がりになっている。
これであれば、ここの住民も喜ぶだろう。
「うん、また最高なものを作ったね、チヒロ」
リチャトさんが目を細めてそう言ってくれた。
思わず目頭にぐっと熱が集まるが、それを無視して無理やり笑顔を作る。
「そりゃ、私ですから」
「うん、そういうと思ったよ。これでサンドウィッチは正式に店舗に出せるけど、これの販売というか、その、公安はあたしってことにしてもいいかい?」
「えっと……もちろんです、たぶん私の名前だと売れないし、はは」
思ったよりも乾いた笑いになってしまった私の顔を、リチャトさんは申し訳なさそうに眺めていた。
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