6話 お手軽!ぷるぷるプリン①

 ご飯の片付けが終わったところで、初めて時計を見た。

 現在の時刻は12:00。

 ちょうど昼食の時間だったようだ。

 だからさっき庭に出た時、日差しが強かったのかと今更ながらに思った。


「リッタ。すまない、王都であったことを村長に報告に行かないといけないといけないから、3時間程家をあける」

「わかりました。気をつけてね?」

「父さん!気をつけて!!」

「ヘールさん、お気をつけて」


 私たちに見送られながら小さくなっていく背中を見つめながら、私はあることを思いついた。


「リッタさん。ヘールさんが3時間ほどで帰ってくるということは、ちょうどおやつの時間ではないですか?」

「オヤツ……?それもまた、チヒロさんのところの習慣かしら?」


 おやつの時間がないことに内心驚きながら、どう説明すればいいか考える。


「この国って、お菓子ってありますか?」

「あるわ。ただ、王都でしか売られてないわね」

「そうなんですか……おやつの時間というのは、3時にお菓子を食べて一息つく時間を指します」

「だけど、お菓子なんてうちにはないわよ?」

「いえ、自分で作ればいいんです!お砂糖はありますか?」

「自分でお菓子を作るの!?……砂糖ね、近くのお店にならあったと思うわ。」

「はい!作っちゃいます!高価でなければ買ってきてもらうことってできますか?」

「そんなに高価なものではないから、今から行ってくるわね。リベラルを頼むわ」


 程なくして、リッタ夫人は砂糖を買いに出ていった。

 リベラルと手遊びをしながら帰りを待つ。

 それにしても、お菓子を作る風習がないどころか、家で作れるものだと思っていないなんて。

 この家が独特なのか、はたまた全体的にそうなのか……


 だめだ、考え出すと他の家まで気になってしまう。

 なまじ正義感の強い性格のせいで、自分が許せない状況になっていると、介入したくなってしまう。

 リッタ夫人が成長魔法をスキルとして持っているからこうやって野菜を育てられているのだろうが、そうでない他の家庭はどうなっているのだろうか。

 まさか、肉しか食べていないのではないか。

 そうなると、まるで都会に出たての時の私ではないか。


 それはいけない、すぐにでも行動を移さなきゃ。


「チヒロ!!痛い!」

「えっ!?!?ご、ごめん!」


 考え込んでしまっていたからか、そこに焦りも含まれていたからか、リベラルの手を知らずに強く握ってしまっていたらしい。

 これでは、昔働いていた学童ボランティア団体の代表に怒られてしまうな、と思い返した。


「いいけど、チヒロ、どこかまだ痛い?顔が苦しそう」

「大丈夫よ。リベラルは優しいね」

「ううん。チヒロが苦しいと私も苦しくなるから心配」


 あの両親にしてこの子供だな、というのがいい意味で使う時が来るとは!

 私は感極まってリベラルをぎゅっと抱きしめた。


「あら~?だいぶ仲良くなって~」

「母さん!おかえり!」

「あっ、お帰りなさい!」


 慌ててリベラルから離れて姿勢を正す。

 そんな私の様子に、2人はクスクスと笑った。


「お砂糖、買ってきたわよ。これぐらいあれば足りるかしら?」

「うわあ!十分すぎるぐらいです!ありがとうございます!」

「そんなに買っていく人が少ないから、お店の人がびっくりしてたわ」


 やっぱり、街全体的に、お菓子を作るという概念がないのかもしれない。

 あったとしても作る家庭は少ないのだろう。


「今から作るものはリベラルも作れますが、一緒に作りますか?」

「え!私も作れるの?じゃあ作りたい!」

「そうねえ、危なくないのなら大丈夫よ」

「では、3人で作りましょう!今から作るのはプリンです!」

「「プリン???」」


 ま、まさかプリンも知らないなんて……

 意気揚々と手をあげた状態で、私はかたまった。

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