4話 さっぱり!ヘルシーサラダ④

「おーい!オンドクルそろそろ焼き上がるぞ!」

「今いきまーす!」


 サラダも作り終え、使ったものの片付けが終わる頃にヘールさんから声がかかった。

 ささ、行くわよとリッタ夫人がキラキラした表情で促す。

 本当にオンドクルは美味しいものなんだなと期待に胸が高鳴った。


 外に出ると、先ほどよりもひとまわりほど小さくなったオンドクルがあった。

 ふわっと優しい肉の香りが鼻を抜ける。

 肉汁たっぷりだと言っていたから、重たい感じなのかと思っていたが、そうでもなさそうだ。

 それにしても、4人で食べ切るにはいささか大きすぎると思うのだが。


「これ、4人で食べ切るんですか?」

「まさか!そんなことはしないわよ~!オンドクルを焼いたらね、ご近所さんに配るっていうのが恒例なのよ!」

「そうですよね~安心しました。ここにもお裾分けってあるんですね」

「オスソワケ?それはどういう意味かしら?」

「私のいたところの言葉で、料理や物を更に他に分けることですね!基本的には、他の人から頂いたものを分けて渡すことを言いますが、こういう場合でも使いますね」

「素敵な意味なのね!私もこれからお裾分け、使おうっと!」


 料理を作っている時から思っていたが、リッタ夫人は素直で飲み込みがはやい。

 ある意味、騙されやすそうでヒヤヒヤする。

 そんなことを考えていると、庭の門から続々と人が入ってきた。


「やあ!ヘール!オンドクル焼いたって聞いたから来たぞー!」

「美味そうに焼きあがってんなあ!さすがヘールとリベラル嬢ちゃんだぜ!」

「もうさっきからいい匂いのせいで腹が減って仕方ねえよ!」

「待ってろ!すぐに切り分けてやっからな!」


 あっという間にすごい人だかりになり、怖気付いていた私を見て、リッタ夫人は家の中へと入れてくれた。

 具合が悪くなったのを察してくれたのだろう。

 ふわふわとしたソファに座らせてもらい、毛布を肩にかけてもらった。


 今まではセントラル一家しか見ておらず、金髪に青い目と、一見すると普通にヨーロッパ系の人のように見えていたので、違和感は感じなかったが、大勢の人たちの姿を見て混乱してしまった。

 赤髪、青髪、銀髪、ゲームの中でしか見たことないような派手髪に、様々な目の色。

 大学でも、派手髪もカラコンもしている人はいたが、こんなに大勢がしているところなんか見たことがなかった。

 しかも、中には大剣を背負っている人、行商人のような格好をしている人などもいた。


 いくらなんでもファンタジーすぎる。

 そうは思っても、実際に見てしまったものを覆すことはできない。

 もう何度目かわからないが、改めて異世界なのだと思わされた。


「配り終えたぞ~~!俺らも食べよう!」

「お疲れ様!すぐにサラダも出しますからね」


 ぐりぐりと肩を回しながらヘールさんとリベラルが勝手口から入ってきた。

 リッタ夫人のおかげで少し気持ちが落ち着いたので、リッタ夫人の手伝いをしに行く。

 先ほどの冷凍装置と同じ原理の冷蔵装置に入れておいたサラダを出す。

 少しひんやりとして、より美味しくなった気がする。


 ゴトンとボウルを置いていくと、ヘールさんもリベラルも変な顔をした。


「チヒロ、この黄色い丸いものは何?」

「俺も気になったな。これはチヒロさんが作ったのか?」

「ええ、そうよ。チヒロさん、色々知っていてね。料理を任せてよかったと思ったわ。ただ、この黄色いものに関しては味の想像がつかないのよね」

「と、とりあえず食べてみてください!」


 このまま話を続けていくと、先程のリッタ夫人と同じ反応をされかねない。

 話が進むのを遮るように無理矢理席について手を合わせた。


「いただきます!」


 ぱんっと手を合わせてからあっと気づく。

 昔、ボランティアをしていた団体で、いただきますの際に手を鳴らしてはいけない、と教わったのを思い出したからだ。

 手を鳴らすのは拍手、いただきますは合掌なので音をたててはいけないそうなのだ。

 3人が訝しげに見てくるのはそういうことだろう。


「イ……イタダキマス?」


 あ、そうだここは。


 日本じゃないんだった。

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