歩き続けよう、希望ある限り
長月瓦礫
歩き続けよう、希望ある限り
あの夢を見たのは、これで9回目だった。
山の中、明かりのない野道をひたすら走っていた。
ぶら下がっている赤色のテープは繋がっている。頂上までの一本道だ。
友達と何度も競争して遊んだから、ルートは全部覚えてしまった。
テープは点、それを繋いで道にして、頂上へ向かう。
回答は無限にあるのに絶対に誰よりも早く到着する。
近道の魔法だ。
人さらいの魔法、眠っている人を動かす魔法。
動きは遅いが命令に忠実に従う。
大きな音に過敏に反応する。まるでゾンビみたいだ。
それが現実になった。
一人ずつ、子どもたちがどこかに消える。
「いた!」
夜の間、1人ずつ消えていく。
あの子の番はいつか来ると思っていた。
頂上から走れば、絶対に見つかる。
真夜中の山道を歩かせるわけがない。舗装された道を行くはずだ。
どこからか笛の音が聞こえる。風に乗ってどこまでも響く。
誰かが呼んでいる。地獄へ導く笛の音、耳が痛い。
「止まれ! 動くなってば!」
パジャマのままで靴も履かずに、ずっとここまで歩かされていた。
肩を掴んでも、虚な目で俺を見る。声をかけても届かない。
「俺だよ、なんで分かんないんだよ! こっち見ろよ!」
焦点の合わない目、本当に死んでいるみたいだ。
笛の音がうるさい。声なんて届くはずもない。
「さっきからうるせえんだよ! このド下手くそが!」
本当に何も考えていない。悪意がこめられた音だ。
俺の知る神様とは程遠い。
虹色の鍵盤、音の神様がくれたものだ。
音を鳴らせば、音符が出てきて、空気を揺らす。
伴奏を弾けば、か細い声で歌いはじめる。
体は覚えているらしい。しばらく歌って、目に光が戻る。
「は? え、ナナミ? ここどこ? てか、寒い! 痛い!」
あたりを見回して、俺に飛びつく。間に合ってよかった。
何も聞こえなかったら、どうすることもできなかった。
「アンタ、こんなとこまで探しに来たの?」
「そんなのいいから、俺も一緒に謝るし!
帰ろう! こんなところにいたら死ぬ!」
上着を肩にかけ、無理やり抱き上げる。思っている以上に軽い。
こんなに小さかったっけ。まあ、いっか。
「全然分からなかった。笛の音が聞こえたのは覚えてんだけど」
「寝てていいよ。こんな冷たくなってさ、疲れたでしょ」
人をさらうくせに、一本道の魔法は使わなかった。
何もないところを歩く姿が不自然だからか。
「そういう魔法なんだよ。無理矢理人を使うんだってさ。
で、使役された人たちはみんないなくなるってワケ」
「何それ、超怖いじゃん」
軽く笑って、しがみつく。
本当に軽い。冷たさが沁みる。
ずっと歩かされていたんだもんな。
「迎えに来てくれてありがとう。大好き。結婚しよ」
「だから、俺はそういうの無理なんだって。諦めてよ」
神様に選ばれちゃったからには、人間として生きていくのは到底無理だ。
将来は神様のもとに行かないといけない。
なのに、バカみたいなことする奴らが多すぎる。
今日みたいに笛を吹いて、何かの生贄を探す奴もいる。
神様から『世界を任せた』と言われる始末だ。
管理者がぶん投げる世界ってどうなっているんだ。
そんな世界、壊れちゃえばいいのに。
寝息を立てる彼女を背負って、山道を歩いた。
歩き続けよう、希望ある限り 長月瓦礫 @debrisbottle00
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