じゃあまたね。

カシ夫

じゃあまたね。

 俺、知ってるんです。

 あの人なんですよね。

 言ってくれれば俺も何かできるのに。


「ごめん、明日からは寄り道できないの」

「何かあったんですか?」

「うん……

 ちょっと、これからは……

 早く帰らなきゃいけなくなって」

「そうなんですか」


 歯切れが悪い。俺には言いたくないってことですよね。


「そしたら一緒に飲みに行けるの今日で最後な感じですね。

 だったら今日は行けますか?」

「うん、大丈夫よ」


 仕事帰りのお楽しみ。少し年上の貴女あなたとの寄り道。今日で最後なんて寂しいです。

 女の人達で喋ってるのを聞いちゃったから知ってるんです。彼氏が海外から戻ってきたって。夕方来店してたあの男ですよね?


「じゃ、そろそろ」


 そんな言い方しなくていいのに。さよならって言わないの、ズルいですよ。


「じゃあまた」


 俺だってこう言うしかないじゃないですか。

 

 さよならって言ったら本当にさよならになっちゃうから。寂しすぎて言いたくないです。さよならしたくないです、本音です。


「うん。じゃあ、またね」


 それしか言ってくれないんですね。俺では何の役にも立ちませんか?

 またね、はもう無いかもしれないのに。


 もう会えないの、知ってます。

 明日からは午前中だけのシフトに変更したんですよね?

 月末で店辞めることになりましたよね?


 本当に、あの男と結婚してもいいんですか?


 ただの仕事仲間だと思われてたのは分かってます。弟みたいだといつも言われてましたから。

 結局、「力になりましょうか」とも「さよなら」とも言えずじまいです。打ち明けてもくれなかったら、言い出せなくて。


「はい。……また」


 違う。挨拶してる場合じゃない。言わなかったら後悔する。言わなきゃダメだ。


「あの!」

「どうしたの?」

「あ、あのっ」

「うん?」


 頼む!

 俺の話が届きますように!


「け、ケガっ、ケガしてますよね。

 昨日やられたんですか?」

「えっ――」

「あの、……好きです。

 心配なのでっ。

 じゃない、すすすす好きだから、心配なんです。

 俺、助けたいんです。

 力になりたいんです」


 届け、届け、届け!


「ありがとう。

 気づいてくれてたんだ」

「はい」

「…………そうね。

 私も、大好きよ、君のこと」


 俺の気持ち、通じましたか?


「決めたわ。ありがとう。

 本当は助けて欲しい、あの人から」

「はい。助けます。絶対」


 えっ、わ、わわ、嬉しい。握手してくれた。


「ありがとう。

 じゃあ、またね。

 明日電話するね」

 また明日ね!」

「はい。

 また明日!」

 

 じゃあ、また。

 また明日、またね、大好きです。

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