短編
NARU
第1話 演技をする人
真っ暗な部屋の中に僕は最近まで一人でいたんだ。窓もないから日光も入ってこない。まるで刑務所の独房みたいだ。ここが今の僕の世界。人と会うこともないし食事は生きていく上で最低限の量しか出されない。本当は前までもう一人この部屋にいたんだ。
だけどどこかに連れて行かれたみたいでその子が生きているのか死んでいるのかも分からない。もうその子の声も思い出せない。きっとそのくらい時間が経っているんだろう。だけど、この場所はあの地獄に比べたら何倍だって良かった。でも外の世界にも出て自分の目でもっと色々なことを知りたかった。でもそんな気持ちを今まで話していた相手はもういなくなったけど久しぶりに人が来て嬉しいよ。
四年前、僕は「地獄」にいた。もちろん、閻魔大王がいるとかそう言うような地獄じゃない。でも似たようなもんかな。僕は父さんと母さんと妹の四人家族で暮らしていたんだ。周りからは家族仲が良くて幸せそうな家族だって思われてたみたい。本当はそんなことないのにね。父さんは会社ではとても仕事ができる人だったみたいでなんかの賞も何回か取ってた。でも家ではお酒ばっか飲んで僕たちに暴力を振るうような人だった。母さんは近所ではとても感じがいい奥さんって言われてたらしいけど、裏では父さんに隠れて浮気してて、父さんが僕らに暴力を振るってても知らないふりをしてた。凄いよね、二人とも。外では良い人を演じれるなんて。僕にはできなかったよ。まぁ、周りから見たら僕も同じように見えてたのかも。でもね、そんな地獄の中にも僕には光があったんだ。僕には妹が希望の光だった。明るい子でさ、自分だって殴られて辛いのにいつも笑って「お兄ちゃん大丈夫?」なんて心配までしてさ。父さんたちが必死に演技してた「良い人」って言うのは妹にぴったりの言葉だと思うな。だって悪いところが見つからないんだもん。人間一つは欠点があるって言うけどあの子にはそんなものなかった。僕にはこの子がいれば大丈夫だって思ってた。だけどね、ある日あの子は死んだんだ。朝、起きたらもう死んでた。今でも覚えてるよ。あの時の感触。触るとね昨日まで太陽みたいに暖かった体が冷たくなってて「あ、死んでるんだ。」って分かった。その瞬間に僕の世界から色は消えた。
でも、すぐに妹が死んだ原因はわかった。父さんだ。父さんが前日にいつものように僕らを殴っていた時に妹は頭を打ってたんだ。それが良くなかったんだろうね。それが分かった時に僕にはある感情が生まれたんだ。「怒り」と言う感情が初めて生まれたんだよ。小さい頃からあの地獄にいた僕らにはそんな感情なんて今まで生まれたことなんかなかった。とても許せなかったよ。妹を奪ったあの人たちに、この場所に。それからの僕はずっとあの人たちにどうやって復讐するか考えてた。毎日、殴られながらいつかこいつらに復讐してやるってね。あ、ごめん話が脱線してたね。あの日のことは、よく覚えてるよ。昼はとても天気が良かった日だったね。僕はいつもみたいに父さんに殴られてて母さんはスマホを見てた。きっと浮気相手と連絡してたんだろうね。だけど、いつもと違うところが一つだけあったんだ。それはね、殴られてる時の場所だよ。僕は大体リビングで殴られてることが多かったんだけど、その日だけは何故かキッチンの近くで殴られてた。それでね、僕は復讐するなら今しかないって何故か思ったんだよ。父さんが殴らなくなった一瞬の隙をついて僕が出せる限界の力で父さんを殴ってやった。そしたら父さんすごい怒ったんだ。「何するんだこのクソガキ!」て言ってた。浮気相手と連絡してた母さんもびっくりしてた。でもそんなことどうでもよかった。僕はキッチンまで走って母さんが使ってた包丁を手に取って父さんに向けた。そしたら父さん驚いてた。「それで、何するつもりだ。」って母さんも「それを置きなさい!」って言ってたなぁ。でも僕にはどうでもよかった。僕から妹を奪ったこの二人には妹と同じ目にあって欲しい。こんな地獄はもう嫌だったんだ。だから、あの地獄を壊してやった。僕らは仲が良い家族なんかじゃない。そんな偽物の家族なんて僕らには最初からないんだから。だからね、二人を殺してやったんだ。包丁で二人を何回も何回も刺して最初は「やめろ!やめてくれ!」って言ってたけどそのうち喋れなくなってた。家の床は二人の血でいっぱいになってた。あれはとても綺麗だったな。
僕が今まで見てきた中で1番綺麗だった。ねぇ、刑事さん。刑事さんはあの景色を見てどう思った?
20〇〇年4月24日〇〇県である少年が両親を殺すと言う事件が起こった。少年は以前から両親に虐待を受けており、少年の妹も虐待により亡くなっている。少年は犯行を認めている。近隣住民は少年の家庭は周囲からとても評判が良くなぜこんな事件が起こったのか分からないと話している。 〇〇新聞
短編 NARU @narukama
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