真心をあなたへ
ぴーぱーはうす
沙代里サイド「恋心」より
ノックの音で沙代里は我に返った。ベッドから立ち上がってドアを開けると、パジャマ姿のお母さんが廊下に立っていた。
「まだ寝てなかったの? 昨日も夜更かししてたみたいだけど、あまり根を詰めすぎると、かえって勉強に差し支えるわよ」
あくびをしながらお母さんが言った。試験勉強をしていたわけではないけれど、部屋の電気をうっかりつけっぱなしだったことに気づかれてしまったらしい。
「ありがと。もう寝るから大丈夫」
「そう。来年には、和樹君と同じ高校に行けると良いわね」
その名前が挙がった瞬間、顔がこわばるのを自覚した。身体の奥から熱が湧き上がってくる。胸が激しく脈を打つ。
不意に、お母さんが屈んで目を見つめてきた。
「……沙代里、あんた、泣いてるの?」
遠くから、窓ガラスの向こう側の暗闇に響く雨の音が聞こえる。いつも以上に胸を穿つような、大粒の落ちる音。
お母さんならこの雨を受け止めてくれるかも知れない、という期待が一瞬頭をよぎる。けれど、それ以上に、心配させたくないという小さな波と、今はほうっておいて欲しいという大きな波が押し寄せてくる。
何度も何度も心の中で渦巻く昨日からの出来事を、沙代里は再び思い返していた。
小鳥のさえずりが聴こえる、晴れた朝。玄関先の門の前で、いつものように和樹君が待っていた。
おはようとあいさつすると、和樹君も静かに微笑んで返す。とっくに声変わりの終わった低い声に、沙代里は今日も謎の安心感を覚えるのだった。
『進学希望調査の紙って、もう提出した?』
真っ直ぐ延びた通学路で、沙代里は隣を歩きながら尋ねた。見上げた視線の先の和樹君が、前を向いて軽く肯く。
『第一志望はやっぱり北高?』
うん、と再び肯く。さすが学年トップだねえ、と感嘆する沙代里に、和樹君が困ったように笑う。
『沙代里ちゃんだって、十分に狙える成績じゃん』
『や、私はそんな大それたこと! 仮に入学できても、後で苦労するのが目に見えてるし』
両手と首を激しく振った沙代里に、和樹君がこらえきれない様子で破顔する。普段は落ち着いた雰囲気の和樹君だけれど、沙代里のいつもながらのリアクションには、こうして無邪気に笑ってくれる。沙代里の頬も、自然と緩んでくる。
『だったら、こないだみたいに、また一緒に勉強する? 期末試験も近いし』
『助かるよぉ。帰りがけにうちに寄ってって。今日、お母さんお仕事だから、静かに勉強できるよ』
お母さんがいると、何かとおもてなしがあって和樹君のペースを乱されてしまうから、今日はちょうど良い。
和樹君は、なぜかワンテンポ遅れて、分かったと答えた。
沙代里は疑ってもいなかった。
こんな風に、どんなときも笑い合える日が、いつまでも続くことを。
校門前に差し掛かったとき、反対側の通学路から女子生徒が走ってきた。前原さん。遠目にも分かる美人。長い黒髪が左右に揺れる。前原さんは、和樹君の前で歩調を緩め、
『市野君、おはよう! ごめん、数学の宿題でどうしても分からない部分があるの。後で教えてもらえないかな?』
あらゆるパーツの整った顔の前で両手を合わせた。成績も優秀だし、自分とは月とすっぽん。比べるまでもないのに何をなぜ比べているのか、すっぽん、もとい、沙代里自身もよく分からない。
和樹君が横目でちらっとこちらを向く。その意図が読み取れなくて、
『さすが和樹君、頼られてるねえ』
笑顔を作ろうとして、わけも分からず口元がひきつった。和樹君が、なぜか表情を微かに曇らせながら、前原さんの方を向いて『良いよ』と返事する。前原さんは『ありがと! じゃ、また後で』と校舎の方へ再び走りかけたかと思いきや、振り返りざまに、和樹君ではなく沙代里の方を見つめた。
ほんの一瞬だけだったのに、綺麗な目を細めて激しくにらみつけられた気がした。お互い一言もしゃべっていないのにどうして、と心がざわついた。
三年一組の教室前で和樹君と別れ、沙代里は教室に入った。席につき、後ろの亜由に声をかける。憂うつそうな表情を指摘すると、期末試験が近いからテンションが上がるわけがないと言われた。
『そう言わないでよ。これ作ってきたんだ、亜由の分あげるよ』
熊をあしらった小さなお守りを亜由の机に置くと、彼女の顔がにわかにほころんだ。
『あんたってほんと器用よね』
二人で笑っていたとき、隣の席から中田君が身を乗り出してきた。
『ごうかクマもり? ああ、合格守、ってか。すげえな坂口。お、俺も欲しいなぁ、なんて』
一瞬考えた。亜由とお揃いで作った自分用のお守りはある。それに、中田君は何だか切羽詰まったように苦笑いを浮かべているし。何より、お母さんに昔から言われている。真心をもって相手に接しなさい、と。
『良いよ、1つあげるよ。また作れるし』
自分用のお守りを手渡した。えっ良いのか、と中田君が満面の笑みで受け取り、席に戻る。心なしか鼻息の荒い中田君を横目で見ながら、亜由が頬杖をついた。
『沙代里、あんた、市野君と毎朝一緒に登校してんのよね』
亜由は、やたら声をひそめて聞いてきた。
『うん。今日、勉強を教えてもらう約束してるんだ。どうしたの急に?』
『……あんたってほんと、手先は器用よね』
『えっ、手先は、って?』
意味を聞き返したけれど、
『自分の言動が周りにどう影響するか、もうちょっとだけ深く考えた方が良いと思う』
そう言って、軽くため息をつくだけだった。ますますこんがらがっているうちに予鈴が鳴ってしまった。
中田君に呼び出されたのは、その日の放課後だった。
『あ、あのさ。ストレートに聞くけど。その、坂口って、やっぱ市野と付き合ってんのかな』
出し抜けに尋ねられた。付き合うというのは、もちろん恋人同士のあれのことか。沙代里にはそんな自覚は無いし、和樹君からそのような申し出を受けた覚えもない。『や、そういうのじゃ、ないけど……』と辛うじて返すと、中田君が『ほんとか?』と一歩近づいてきた。
何だか距離が近い。沙代里は一歩後ずさった。後ずさりながら、和樹君となら隣り合っていても気にならないのに、と不思議に感じた。
『すまん、つい前のめりになっちまった』
『前のめりって、ど、どういう意味?』
『俺、明るくて友達思いな坂口のこと、良いなってずっと思ってて……今度の期末試験であいつに勝ったら、俺と付き合ってくれねえかな』
頭の中身が、全て飛び散っていくような気がした。
『市野とは付き合ってないって今聞いたし、お守りも譲ってくれたし、俺にも可能性は残されてんのかな、って』
焦燥感に襲われる。亜由の言葉の意味がようやく分かる。好意だと受け取られてしまったのは困る。けれど、即答で断ったりしたら、お母さんの言う真心に反することにならないだろうか。
『か、考えさせて、欲しい』
それだけ答えた。中田君は、口元を緩めて去っていった。
帰宅した後、和樹君が訪れてからも気がそぞろだった。問題が頭に入ってこない。当然答えも出てこない。和樹君の解説が耳に入らない。何度も何度も聞き直していると、
「どうしたの、体調悪いの?」
和樹君は正面から顔を寄せてきた。近いと思ったけれど、中田君のときのように後ずさりたい気持ちにはならず、代わりに少し息苦しくなってきた。もしかしたら、本当に体調が悪いのかも知れない。あんな事があった後だし。
勉強に身が入らない沙代里を見かねたのか、和樹君は勉強後に夕食に招いてくれた。和樹君のお母さんも、久しぶりにうちに上がってもらえて嬉しい、と言ってくれた。それでも気は晴れなかった。
夕食後、和樹君は沙代里を家まで送っていくと申し出てくれた。満月が辺りを優しく照らしている。途中の公園に立ち寄った和樹君は、沙代里をベンチに座らせ、近くの自販機でピーチジュースを買ってきてくれた。
『懐かしいね、このジュース』
『昔、好きだっただろ?』
隣に座った和樹君は、正面の月を見上げた。
『今日はどうしたのさ、いつもの沙代里ちゃんらしくない。何かあったの?』
さすが、ごまかせそうにない。和樹君には話すしかないと思った沙代里は、ためらいながらも口を開いた。
『えっと……実は、クラスの中田君に告白されちゃって』
沈黙が訪れる。
返事を待つ。
だけど、和樹君は答えてくれなかった。
いつもなら、すぐに何にでも答えてくれるのに。息が詰まる。心の行き場がない。隣に寄り添ってもらっているのに、何故か和樹君をひどく遠く感じる。
やがて、低い声がぽつりと聞こえた。
『……うの?』
いつもは耳に心地いいはずの声が、聞き取りにくい。
『えっ?』
『付き合うの? 中田と』
いつも穏やかなはずの声が、妙に平坦に感じられる。
変な汗が出てくる。沙代里はしどろもどろに答えた。
『や、考えさせて欲しいとは言ったけど、その、私にはそういうのは早いかな、って……』
和樹君の顔が、ゆっくりとこちらを向く。
『なら、どうして僕に、この話をしたの』
想定もしていなかった方向からの質問を受けて、頭が真っ白になった。
『え、だって、和樹君は小さい頃からご近所さんで、私、兄弟いないから家族みたいなものだって思ってるし、和樹君は何にだって答えをくれるし、同い年なのに頼りになるし、つい甘えて……』
突然、月が隠れた。
同時に、何かが唇に触れた。
生まれて初めての感触だった。それが和樹君の唇だと気づいたのは、急激に遠ざかる和樹君の顔が見え、
『ごめん……!』
今まで聞いたこともない、上ずった声の謝罪の言葉を聞いた後だった。
声が出なかった。
幼い頃から遊んだ公園で。幼い頃から何度も座ったベンチで。幼い頃から一緒に過ごしてきた男の子と。
全身が燃えるような感覚。心臓が勝手に暴れ始める。それでいて、足が地面からほんのり浮き上がるような気持ち。その気持ちの意味を探ろうと手を伸ばしかけたとき、
『もう送ってくよ! これ以上帰りが遅くなったら、おばさんに怒られちゃう……』
急激に現実に引き戻された。絞りだすような和樹君の声に、沙代里は、ただ頷くことしかできなかった。
送ってもらう道中、一言も発することができなかった。和樹君も同じだった。昼間だったら、肌の色がいつもと違うと言われるのではないかと思った。
幸い、お母さんには怒られることもなく、和樹君にお礼と労いの言葉だけがかけられた。和樹君は和樹君で、慌てふためいたような声でしか会話できていなかった。それをお母さんがどう思ったかは分からない。
その晩、沙代里は一睡もできなかった。
翌日の曇った朝。鳥の鳴き声は聞こえない。玄関先で、いつものように和樹君が待っていた。
沙代里がどもりながらあいさつすると、和樹君も、とちりながら返事をした。
安心感よりも大きな、謎の不安が押し寄せてきた。
いつもの通学路が、何だか曲がりくねって見える。
昨日の事が、夢だったら良かったのに。
これから和樹君とどう接すれば良いのだろう。声を掛けようと思い切って顔を上げたとき、
『ごめん、今日は一緒に勉強できない』
赤い顔をした和樹君が、前を向いたまま口を開いた。
『ど……どうして?』
かすれた声で尋ねると、また想定もしていなかった言葉が返ってきた。
『今日、沙代里ちゃんの家で二人きりになったら……理性を保てる自信が、ない』
言葉が見つからなかった。
『今朝は、そのことだけを伝えたかったんだ』
ずっと隣同士で歩いてきた二人の間に、すき間が空いた気がした。
『もし嫌なら……毎朝迎えに行くことも、もうやめるよ』
その日の昼休み、亜由に校庭の裏へ連れ出された。朝からほうけているし呼びかけてもまともに返事がないし、様子がおかしすぎる、と言われた。
沙代里が昨日の出来事を途切れ途切れに吐き終わった後、亜由は上体を反らせて頭を掻きむしっていた。言わんこっちゃないわ、とぼやきながら。
『どうするの? このままほったらかすわけにはいかないでしょ。市野君のことも、中田のことも』
詰問めいた言葉と口調に戸惑った。ほったらかしにしたくてしているわけではないのに、どうして責められないといけないのか、と。
『そ、そんなこと言われたって……私にも分かんないよ』
元の姿勢に戻った亜由は、今度は『はぁ?』と眉間にしわを寄せた。
『だって、私、和樹君のことをどう思ってるかだって、自分自身ではっきりしてないのに』
『ふうん……あっそ』
右手を頬につける亜由。こめかみに人差し指を何度もせわしなく当てたり離したり。考え事をしているときの亜由の癖だ。
『じゃあ聞くけど。あんたの代わりに、他の誰かが市野君の隣を歩くようになっても良いの?』
『そ、それは』
他の誰か、と聞いて即座に思い浮かんだのは前原さん。成績優秀な美男美女。お似合いかも知れない。知れないけど。
『何か……嫌だ』
『へえ。そしたら、市野君にキスされたとき、どう思ったの? 嫌だったの?』
矢継ぎ早に飛んでくる質問に、頭が追いつかない。
『ええと、びっくりしたけど……』
あの時の感覚を思い返す。全身が熱くなる感覚。胸が暴れる感覚。足が地面を離れる感覚。
『嫌、というのとは……どれも違った気がする』
口角を軽く上げた亜由は、頬から手を離して、人差し指を沙代里に向けた。
『それが、あんたの答えでしょ』
戻ろ、ときびすを返そうとする亜由。
『ちょっと待って、それじゃまだ分かんないよ』
追いすがろうとしたとき、亜由は再びこっちを向いた。そして、再び口調が険しくなった。
『あんた、いい加減やめなよ。自分に嘘つくの』
『う、嘘、って?』
『分かってるくせに。怖いんでしょ、自分の気持ちをはっきり言葉にするのが。いつまでもそのまんまだと、市野君、本当にあんたから離れていっちゃうわよ』
時間切れのチャイムが校内に鳴り響いた。亜由が走り去っていく。沙代里はその場に置き去りにされたまま、校舎裏に立ちつくしていた。
夕方から降り始めた雨は、まだ止んでいない。
ベッドに仰向けになった沙代里は、両目の外側を次から次へと伝っていく涙を感じていた。
誰か教えて欲しい。
もう、あの頃の二人には戻れないの?
もう、あの頃の私には戻れないの?
亜由は沙代里の中の答えを知っていて、答えを引きずり出そうとしているようだった。あの後、結局亜由とはまともに話ができなかった。放課後に亜由に話しかけようとしたたけれど、『ごめん、言い過ぎた』とだけ言われ、立ち去られてしまった。
和樹君といつまでも一緒にいたかっただけなのに、亜由が言うには、その気持ちだけでは一緒にはいられなくなってしまうらしい。訳の分からないその事実だけで、心が引き裂かれそうだった。
自覚を芽生えさせようともがく自分と、その自覚を拒絶しようとする自分がいる。
公園でのあの瞬間、心のどこか奥底が激しく揺さぶられる気がした。けれど、それだけではなかった。たくさんの大事な思い出が無数の欠片になって、手の平から零れ落ちる気がした。
いつからだったのだろう。
どうして私なのだろう。
長い長い記憶を辿ろうとしても、答えがどこにあるのか分からない。
夜が怖い。笑い合えたあの頃が、余計に遠ざかる気がするから。
恋愛のことは、漫画や小説やドラマで知っていた。クラスメイト達の恋バナも聞いた。だけど、恋心という感情が実際にどんなものなのか、全然分かっていなかった。
本当に、これが恋心なの……?
ちっとも甘酸っぱくなんかない。ちっともときめきなんかない。哀しみと迷いばかり。
しゃっくりが出る。腕で目頭を押さえる。
昨日までの自分が恥ずかしい。自分は何も分かっていなかった。和樹君の優しさに甘えきっていたことも。中田君を勘違いさせてしまっていたことも。亜由を呆れ返らせてしまっていたことも。
これから先、私の気持ちをどこに向かわせれば良いのかすら分からない。
心がバラバラになりそう。誰か助けて。
そんな事を考えていたときに、ノックの音が聞こえ……そして今に至る。
「な、泣いてなんかないよ。おやすみ!」
お母さんの問いかけにそう返し、ドアを強引に閉めようとしたとき。
突然腕を引っつかまれて、次の瞬間、おでこをピンと弾かれた。
「痛ったあ……」
おでこを押さえる沙代里の涙目の前に、微笑むお母さんの右手があった。
「母親の目をごまかせると思った? ちゃんと話しなさい。和樹君の事なんでしょ?」
いきなりデコピンをしてきた直後とは思えない穏やかな声と共に、お母さんは沙代里の部屋に静かに入ってきた。
ベッドに並んで座り、お母さんは最後まで聞いてくれた。和樹君とのこと。中田君とのこと。亜由とのこと。我ながらしどろもどろだった。でも、途中でさえぎられることもなく、ただ、ひたすら、頷きながら聞いてくれた。
話し終わった後、お母さんは、さっきよりももっと優しい表情になっていた。
「なるほど。あんたは、嬉しさよりも苦しさの方が勝っちゃってるのね」
たった一言で、沙代里のこんがらがった気持ちがほぐれていく感覚を味わった。まるで、立体迷路を斜め上から見たかのような、シンプルな答えだった。
「今はそれでも良いのよ。悩むということは、真剣に考えてる証拠だから。時間はかかるかも知れないけれど、あんたの気持ちをあんたなりにしっかり整理しなさい。そして、いつも言っているように、真心をもって三人に接しなさい。そうすれば、結果がどうであっても、たとえ傷ついたとしても、ちゃんと前に進めるはずだから」
涙で目の前が見えなくなる。けれど、さっきまでとは違う種類の涙だと分かった。
お母さんが浅いため息をつく。これも、昨日の亜由のため息とは違うものだった。
「むしろ安心したわ。あんたにもこういう時期が来たこと。……眠れそう?」
「うん。ありがと、お母さん」
「じゃ、今度こそおやすみ」
お母さんが去った後、沙代里は部屋の電気を消してベッドに潜り込んだ。
目の前には、ぼやけているけれども一つの光が見える気がした。
もう逃げない。
これからも色んな人達を傷つけるかも知れない。けれど、何も知らなかった頃のように、誰かを無自覚に傷つけるのはもう嫌だ。
私は、私自身の恋心に向き合わなければいけない。たとえ時間がかかっても、和樹君の気持ちにちゃんと答えを出さなければいけない。
沙代里は袖で涙をぬぐい取り、真っ暗な天井を見上げた。
その晩、沙代里は穏やかに眠ることができた。
翌朝、沙代里はいつもよりも早く家を出た。
駆け足で向かう。学校とは逆方向へ。公園の傍を抜けて、和樹君の家の前へ。
これまでは迎えに来てもらうだけだった。会いに来てくれるのを待つだけだった。でも今は違う。
私は、私から、会いに行きたい。和樹君に会いたい。会って、自分の正直な気持ちをちゃんと伝えたい。
一晩経ってあらためて思う。自分は、お母さんが本当に伝えようとした真心の意味をいつの間にか履き違えていた。表面的な優しさだけじゃだめなんだ。昨日お母さんが言ってくれたように、たとえいっとき傷つけて傷ついたとしても、相手と、自分と、真剣に向き合わなければいけなかったんだ。亜由とも、中田君とも、そして和樹君とも。
和樹君の家の門が目の前に近づく。門が開いて、和樹君が出てくる。
沙代里は、ありったけの力で走りながら、ありったけの声で和樹君の名前を呼んだ。
真心をあなたへ ぴーぱーはうす @piipaahouse
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