第3話 ここが俺の冒険者ギルド!
何事にも形から入るタイプの人は少なくない。そして俺は、その形から入るタイプの典型例だ。
野球にハマった時には、プロ選手モデルのグローブを買いに行き、料理にハマった時には、料理人が使うような調理器具を合羽橋に買いに行った。
そして今、俺は、これから開こうとしている"店"の格好の良い"形"の準備をしている。
「ふぅ、こんなところか。」
俺は、町長のおっちゃんのおかげで手に入れることのできた"拠点"を見渡す。
やはり俺は、世界観や雰囲気というものを重視するタイプらしい。
目の前に広がる景色を見て、期待感が膨らんでくる。
「よしっ!町の便利屋改め、俺の冒険者ギルド!開店だ!」
朝、それは一日のはじまり。
心地の良い朝日、鳥のさえずり。
落ち着いた心地良さが、これからの一日の期待感を掻き立てる。
休日の朝とはそんなものだ。
ただ、今日一日を除いて。
「重力重い、、、。」
目を覚ますと、そこは昨日と違う天井だった。
おそらく昨日、町長のおっちゃんが言ってた宿屋だろう。
「もう酒、、、1ヶ月はいらない、、、。」
意識が戻ってくると共に、昨日のトラウマが蘇ってくる。
世の中、上には上がいるものだが、酒の世界の強者にはなるべく近づきたくないものだ。
「味噌汁作ってくれる彼女でもいればなぁ、、、。」
そんな、これまでも、これからも存在しえない冗談を口ずさみながら回復を急ぐ。
宿屋に置かれた申し訳程度の水が命綱だ。
「おーい!起きてる〜?」
ドアの向こうからワカナさんの声がする。
「今行きます、、、!」
俺は、今出せる最大限の声を捻り出し、入口へ向かった。
「おはようございます、、、。」
「おはよ!二日酔い〜?まだまだだねぇ〜。」
「あはは、、、。ワカナさんは、朝早くから元気すねぇ、、、。」
「畑があるからねぇ〜。ま、昨日もほどほどにしてたし?」
「えぇ、、、。」
「田舎の朝は早い」が本当だった驚きより、目前の化け物①の回復力の高さへの驚きが勝る。
この町では困惑の連続だ。
「あ、それで、何しに来たんすか?」
「あ。そうそう!町長がエイジを呼んでるって伝えに来たの!」
「え、町長がですか、、、?」
俺は、化け物②の呼び出しに若干の悪寒を感じ、生唾を飲む。
口腔に溢れる消化液は唾液だけで十分だ。
「そう!昨日酒場のとこ!頼みたいことがあるんだって!」
「あそこ、あの人の別荘かなんかなんすか、、、。」
「まあ、町長が貸してる物件だし?」
「はぁ、、、。」
「ま!早く行きな!ほら!」
「ちょっ!ってか、ワカナさんは来てくれないんすか!?」
「私は畑戻るから〜♪またね〜♪」
「えぇ、、、。」
俺は、助け舟を失ったことにやや絶望しつつ、昨日の酒場へと歩みを始めた。
「太陽、、、二日酔いに優しくない、、、。」
たった100mそこらの距離が、今日は何倍にも感じられた。
「おは、、、ようございます、、、。」
朦朧とする意識で何とか酒場の扉を押し開ける。
「おおう!!エイジくん!!待っとったぞ〜!!」
いい意味で意識をハッキリとさせる声、悪い意味で頭痛に優しくない大声が、俺の元に降り掛かってきた。
「おはようございます、、、町長、、、朝早くから元気っすね、、、。」
「なんじゃ!?エイジくん!二日酔いか!?ならアレを貰えばいい!」
町長は、何やら「マスター!例のアレじゃ!」と注文をしてくれた。
俺は、この化け物②が「迎え酒じゃ!」とか言わないか不安に思いながら、椅子へ腰を落とした。
「ほれ!これを飲めば二日酔いなんかイチコロじゃ!」
「何です、、、?これは、、、?」
「マールコメで採れるソーイポーションじゃ!飲んでみぃ!」
「わ、分かりました、、、。」
俺は、目の前のマグカップに注がれた、温かい黄金の液体に口をつけた。
「うんまい、、、!」
「そうじゃろ!そいつは酒飲みの救世主なんじゃ!」
「マジでありがとうございます、、、!生き返ります、、、!」
俺は、目の前に現れた救世主と、創造神のマスターに脳内でスタンディングオベーションした。
町長のおっちゃん、、、!さっきまで化け物②とか言って恨み節唱えててごめんな、、、!
「、、、ふぅ。何とか回復しました、、、!ありがとうございます!」
「流石若いの!回復が早いのう!こりゃワシと張り合える逸材かもしれんのう!」
「アハハ、、、。」
目の前でガハハと笑うおっちゃんが救世主なのか悪魔なのか。
俺には、見分けがつかなくなってきた。
「それで、俺を呼んだ要件って何なんですか?」
「おお!そうじゃった!君に頼み事があるんじゃ!」
「何ですか?」
俺は、この化け物②から恐ろしいワードが飛んでこないか身構える。
「君にこの町の便利屋をやって欲しいんじゃ!」
「便利屋ですか?」
「うむ!この町の困り事、人手が足りない〜とかを手伝ってほしんじゃ!」
「まぁ、俺でいいなら何でもやりますけど、。」
「ホントか!?若いのが来てくれると色々助かるんじゃ!」
「いえいえ!俺も町長から貰った恩義返したいんで!」
1から仕事を見つけようとしていただけに、まさに寝耳に水だ。
やはり異世界転生は、展開の都合が良い。
俺は、「町長のおっちゃんは、やっぱ救世主」と再び脳内スタンディングオベーションを開始した。
「場所はのぅ、、、。宿屋の隣の大きな建物!あそこを使ってくれぃ!」
「え!あの公民館みたいなやつ貸していただけるんですか!?」
「うむ!いずれみんなの憩いの場にしたいからの!」
「コミュニティスペースとかギルドとかみたいにしたいんすね!分かりました!」
「こみゅみちぃ?ぎるど?なんじゃか分からんが、君に任せた!お願いなぁ!」
「分かりました!俺頑張ります!」
「若いのはやる気があっていいのう。」
やはり異世界転生、どれだけくっっっっそ田舎であってもお約束の展開は来るものだ。
俺は、待ちに待ったスローライフ到来と、ギルド(?)開設に口角が上がりっぱなしだった。
「ようやっと、ようやっと、俺の異世界転生が始まる!!」
そんなワクワクと希望を胸に便利屋設営の手を進める。
便利屋の仕事のハードさを知らないまま、、、。
転生したらくっっっっっそド田舎だった件!!! 白神小雪 @yukishirakami
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