転生したらくっっっっっそド田舎だった件!!!
白神小雪
第1話 転生先はまさかの超ド田舎!?
俺は東京という街が嫌いだ。俺、村尾英治は、生まれてから早21年、この街に住み続けてきた。便利さも手軽さも十分に享受してきた。だからこそ、俺はこの街が嫌いだ。
忙しなく動く時間と人は、まるで俺の事を空気みたいに扱う。きっと今すれ違った人達のように、身近な人間たちもきっと、すぐ俺を記憶から抹消するのだろう。
もっと大事にしてくれてもいいだろう。なんて愚痴を吐いたところで、それは膨大な人と情報の波に飲まれ消えて行く。
きっとこのまま俺は、誰の記憶にも残らないまま都会という海の藻屑と化していくのだろう。
だからこそ、俺は東京という街が嫌いだ。
平日の夕暮れ、帰宅ラッシュの民を見下ろしながらベランダで缶ビールを飲む。この瞬間が、俺にとって一番至福の時間だ。
あんな拷問部屋に1日2回も閉じ込められるなんてまっぴらごめんだ。大学生としてラッシュ帯から一歩身を引いた今、2週に1回の小田急線強制大停止大会にも違った意味で同情できてくる。
だからこそ、そんなHP僅かな人間を肴に酒を飲み、現実逃避するこの瞬間が、一番の至福なのだ。
「さっってとっ、スマホ、スマホっと。」
そして、この空間でスマホを片手にSNSと動画サイトを永遠にループする。そんな一切生産性のないこの時間が、今の俺にとっての楽園なのだ。
「あ~もうっ!ネットニュースとか時事ネタ動画とか出てきすぎ!俺のオアシスに現実を持ち込むな!」
テレビやネットを見れば、もはや五月蠅いまでの不祥事や対立論争、目前の足元にはHP1の帰宅ラッシュ民。そんな環境だからこそ、それらから隔絶された世界に身を置かなければなんか正気を保ってはいられない。
「さてさて、今日の推しの投稿は何かな~っって何だこれ?」
ー某大人気アイドルグループの○○氏、熱愛発覚からの電撃引退か!?-そんな目を疑うネット記事が目に飛び込んできた。
「…嘘だよな?」
至福の時間の幸福感が一気に吹き飛び、一気に血の気が引いていくような感覚がする。スマホを持つ右手は震え、全身の力が抜けていくのを感じる。
「…いやまだっ!公式から声明を見るまではまだっ!っってうわぁぁぁっ!!」
そんな状況であったからだろうか、右手に持つスマホが夕空に泳ぎだしていった。
「っと!っと!っと!よしっ!っってちょっ!うわぁぁぁっ!!!」
間一髪、とっさの反応でスマホをキャッチできたところまでは良かった。しかし、その刹那、自分の肉体に強烈な重力がかかるのを感じた。
そう、スマホを夢中で追いかけた結果、どうやら俺はベランダの柵から身を乗り出しすぎたようだった。
「ちょっ!ちょっ!ちょっっ!!ここ5階だってっ!!ちょっ!ちょっ!」
人間どんなに絶望していても、危機に直面すれば恐ろしい力を発揮するものだ。しかし、その力も手遅れと至近距離な状況では無意味である。そんなことを人生の最期に学ぶなんて思ってもみなかった。
「あっ…俺死んだわ…」
『ドサッ!!!』
そんな大きな音と、一瞬で気を失うような激痛とともに、俺の生涯は幕を閉じた、、、はずだった、、、。
「っっっ!!!」
目を覚ますとそこは、昭和映画でしか見たことの無いような、一面田んぼの風景だった。
「生きては…いるんだよな…?」
目の前の状況が本物かを確かめるため、自分の頬を思いっきりつねってみるが、ちゃんと痛いだけであった。
「普通こういう転生系って、ヨーロッパっぽいとこに転生するもんじゃないの??」
目の前で起きる不可解で意味不明でどこか現実的な現象に困惑しながらも、俺は必死に思考を張り巡らせる。
それもそうだ、死んだと思ったら、いきなり現実味のある意味不明な空間に飛ばされてしまったのだ。この世界の理も、今日生きる術も、何も分からないのだ。
「…とりあえず誰か人に会うまで歩いてみるか、、、」
そんな不安を解消するため俺は、道路と呼んでよいのかも分からない荒廃したアスファルトの道へと歩みを進めたのであった。
もう20分は歩いただろうか。しかし、おかしいことに集落はおろか、人間にすら遭遇することがなかった。
「こんな人もいない、風景の変わらないとこ、、、何十分も歩かされたら、気が狂っちまうよ、、、」
そんな愚痴を垂らしながら歩くことで何とか正気を保っていたところに、ようやっと希望の光が差し込んできた。
少し大きめの集落、いや村みたいなものが見えてきたのだ。
「あそこだったらさすがに沢山人いるだろ!お願い頼む!」
そんな縋るような、喜ぶような声で、己を鼓舞し、棒になりかけていた足を何とか進める。
「ようやっっとついた!!誰か頼れそうな人!あっ!あの人にしよう!」
人間とは不思議なもので、危機に直面したときには恐ろしい力を発揮するらしい。普段積極性が皆無といってよい自分が、驚くほどの行動力を発揮している。俺は、前世の死に際で得た学びに感謝さえ覚えた。
「あのっ!すいません!今いいですかっ!?」
「はい?どうかしましたか?」
俺は、その勢いのまま買い物帰りだろう道端の女性に声をかけた。
「あの、ここって日本の何県なんですか?」
「ニホン?ナニケン?なんです??それ??」
「えっ…。じゃっ、じゃあっここはどこの国なんですか??」
「ここは、ナモナス共和国。そして、この街はジッパリーよ。」
驚いた。聞いたこともない国。聞いたこともない都市名。どうやら俺は、本当に異世界転生をしてしまったようだ。
「あの~、そのナモナス共和国っていうのはどういう国なんですか??」
「この国は、この街ジッパリーを首都とした共和制国家よ。」
「えっ…。」
「ん?」
「いやさっき、この街が首都だって、、、」
「ええそうよ。素敵な街でしょう?」
「はぁぁぁぁぁっっ?」
前世で死に際に味わったような衝撃が、体の中をひた走る。いくら何でもよそ者を驚かせ、からかうための冗談だ。きっとそうだ。だって、だって、、、。
「いやだって!この街どう見たってドいなk」
「失礼ね!この国随一の都会よ!酒場が2つもあるんだから!」
「いやだって!ギルドは!?賭場は!?っってかショッピングモールは!?」
「なにそれ??聞いたことないわ?大陸のタイシタール帝国にはあるのかしら??」
「いやいや、、、勘弁してくれよ、、、」
どうやら俺はとんでもないところに来てしまったらしい。異世界転生の常識はおろか、前世で活きていたころの常識感覚さえ通用しない。そんな恐ろしいところに転生してしまったのだ。
この世で異世界転生を望むものが、どれだけ想像できるだろうか。
まさか転生先がくっっっっっそド田舎だなんて。
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