君の笑顔、私の涙、そして大好き

神月 璃夢【りむ】

第1話

 夕焼けが校舎をオレンジ色に染める放課後。

いつもの待ち合わせ場所、屋上へと続く階段の踊り場で、

私はユイを待っている。ここは、私たちだけの秘密基地。


 「ごめん、待った?」

息を切らせて現れたユイは、透き通るような白い肌に、光を宿した琥珀色の瞳がキラキラと輝いている。

 クラスの誰もが憧れる存在なのに、時々見せる憂いを帯びた表情に、私だけが気づいているんだ。


 「ううん、私も今来たところだよ」

そう言って微笑みかけると、ユイはホッとしたように笑い返してくれた。

その笑顔は、やっぱり私だけの宝物。


 私たちが出会ったのは、去年の入学式。同じクラスで、ユイはたまたま隣の席だった。話してみたら、趣味も好きなものも驚くほど一緒で、すぐに意気投合した。

 毎日一緒に過ごすうちに、ユイの優しさ、笑顔、時々見せる寂しそうな横顔に、どんどん惹かれていった。

 そして、勇気を振り絞って告白。「私も、ずっと好きだった」って、ユイは嬉しそうに微笑んでくれた。

 

 付き合い始めてからは、毎日が夢みたいだった。

一緒に下校したり、カフェで勉強したり、時には夜遅くまでLINEしたり。

 でも、幸せな時間の中で、少しずつ不安も大きくなっていったんだ。

ユイは誰からも好かれる人気者。それに比べて私は、どこにでもいる普通の女の子。

 いつかユイは、私よりもっと素敵な人を見つけてしまうんじゃないかって。そんな不安が、いつも心のどこかにあった。


 ある日、クラスの男子がユイに告白しているのを見てしまった。ユイは困ったように口角が少し下がり、微かなため息をついた。その姿が、まるでスポットライトを浴びているみたいに眩しかった。

 その日から、私はユイを避けるようになってしまった。話しかけられても、素っ気なく返事をして、一緒に帰るのも断った。

ユイは戸惑っているようだったけど、何も聞いてこなかった。それが、余計に辛かった。

 

そして、一週間が経ったある日の放課後。いつもの踊り場で、ユイが待っていた。

 「あの、話したいことがあるんだけど」

ユイの真剣な眼差しに、私は覚悟を決めた。

 「もう、私のこと、好きじゃないの?」

ユイの言葉に、私はハッとした。

そんなこと、一度も思ったことはない。

 「そんなことない!大好きだよ、ユイのこと!」

涙が溢れて、言葉が震えた。

 「じゃあ、どうして避けるの?私、何かした?」

ユイの瞳にも、涙が浮かんでいた。

 「だって、ユイは人気者で、私なんかよりもっと素敵な人が…」

そこまで言って、言葉に詰まった。ユイは私の言葉を最後まで聞くと、優しく微笑んだ。

 「私は、私が好きな人と一緒にいたいだけ。それが、たまたまあなただった。それだけのことだよ」


 ユイの言葉に、心が軽くなった気がした。私は、自分の気持ちばかりで、ユイの気持ちを全然考えていなかったんだ。

 「ごめんね、ユイ。もう、絶対離れない」

そう言って、私はユイを抱きしめた。ユイは私の背中に腕を回し、小さく笑った。

 「うん、私も。大好きだよ」

夕焼け空の下、私たちは永遠を誓った。

これから先、色んなことがあるだろう。

それでも、私たちは手を取り合って、一緒に乗り越えていく。


 「またね、大好き」

ユイの言葉に、私も笑顔で返す。

 「うん、また明日」

明日も、明後日も、その先も。ずっと、一緒にいようね。


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君の笑顔、私の涙、そして大好き 神月 璃夢【りむ】 @limoon

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