2話
外の見えない車の中、ただ一人で何もない空間。揺れだけを認識して、あとは何もない。狭い独房から、広くて人のために死ぬ刑務所に連れていかれてる。私の母国で、昔流刑とかいう刑罰があったらしい。殺されるわけではないけれど、たしか殺されるのとほとんど変わらないとか、そんなことを数年前に学校で習ったかもしれない。まさしくそれと同じ。すぐに殺されるか、あとで死ぬか。何も変わりはない。
母は、病気になった私を病棟に入れた。まあ、その前から似たような状況だったのだから変わりはない。病棟のほうが、ちゃんと料理を出されるだけよかったかもしれない。勉強もしなくていいのだから、学校よりもいい場所だったかもしれない。うん、なんだかいい場所だった気がしてきた。そこで色々検査をされて、嫌な検査もされた。いい場所ではなかったな。考えが変わった。そのあと、なぜか別の部屋に連れていかれて、そうだいきなり「あなたは素質がある」みたいな、友達の家で読んだ漫画のセリフみたいなことを言われたんだった。それで、そう。なんかナントカ機関のナンカに入ることになった。親と会いたいか聞かれて、お父さんに会いたいって言ったのに、一度面会に来たのは母だった。私は母の顔を見て、なんか悪いことをたくさん言った気がする。でも、母は顔色とか一つも変えずに、「あんたを産んで初めて、よかったと思ったよ。」って言われた。ムカつく。そうそっから車に乗せられて、今なんだっけ。
何度も反芻してる、今の状況の整理ももう終わりにしなくちゃ。そう思って気分を変えようとしたら、車が止まって扉が開いた。ついちゃったらしい。気持ちが変えられなかったモヤモヤが、残りながら車を降りた。無駄に荘厳な扉。でも、刑務所にしてはちっぽけな扉。いいごはんだけでも、食べられたらいいな。そう思って、開いた扉から建物に入る。出迎えはなしか。でも、導線はしっかりしてる。導かれるように、建物に入って人の気配がある扉を軽く開ける。
「「入隊おめでとう、アイリちゃーん!」」
私が一緒に死ぬ仲間は、とびきりのバカらしい。
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「なあ、歓迎会って何をすればいいんだ?」
「グラ、そんなに気負う必要はないよ。ただおめでとうの気持ちを全身全霊で言えばいいんだ!」
自分で言っておいて、なんだか馬鹿らしく感じた。今の班員にそんな気持ち、絶対ないだろう。
「おめでとうって、皮肉だよそれじゃ~。そうだなぁ、一緒に地獄でがんばろ、とかそういうことじゃない?」
やはり地獄は共通認識か。死んだあとは天国に行ければいいが。
「地獄って…まだいい言い方をしようよ、ね?」
「間違えていないので、なおさらたちが悪いですね。まあ、今の班長なら楽しく過ごせる地獄ではあるかもしれませんけど。」
「地獄に変わりないなぁ。まあ、楽しいならそれでいいか。」
皆が幸せになれるなら、私がオルフェウスだろうが、ハーメルンの笛吹だろうが、なんにでもなろう。
「ところで飾り付けって、これ本当に必要か?俺が無知なだけか?」
「ノックスのところでもこういうことってやらなかった?歓迎会なんだから豪華にしなきゃ。」
「うーん、歓迎会。まあこことは違って、一人だけ入ってくることは基本的にないからな。パーティというか、それはやったな。」
「パーティ!それだよそれ!グラ、それって何をしたの?」
「筋トレだな。ノックス班長が作った特別メニューを紹介されたよ。」
想像の斜め上のパーティだった。グラもノックスもムキムキの理由がこんなところでわかるなんて。
「それにしても、備品のパーティグッズが活躍する日が来るとは思いませんでした。数年前の、班長が来る前に買ったやつらしいですね。火薬も湿気てこれもう使えないんじゃないですか?」
確かに。的確な指摘をされた。糸を引いてもクラッカーが弾けなかったら、その時の絵面はさぞ間抜けだろう。
「そしたら私の魔法でどうにかいい感じにするよ~。火に関する魔法は苦手だけど、クラッカーくらいならいけると思うよ~。」
「いやぁ、一応確認しておこうか。グラ、袋からクラッカー一個ちょうだい。」
「了解、班長。」
「というか、新人はいつ来るんですか?連絡ありましたっけ?」
「え?それってわかってるの?」
「普段は班長の携帯に、大体の時間が来ると思うんですけど…確認してないんですか?」
嘘だろ。飾り付けとか料理に時間を忘れていたせいで、携帯を確認するのを忘れていた。ポケットから慌てて携帯を取り出し、通知を確認する。
「えーっと?12時って書いてある、かな?」
「え?もう12時だよ?」
言われて携帯で確認したら、もう12時まで、文字通り秒読みだった。
「…まずいな?」
「まずいですね。」
「忘れてたのか?」
「班長、そこは昔のほうがよかったねぇ。」
初めて前の私をほめられた。
「ちょっと待って、ちょっと待って。じゃあ料理運んで!早く!」
「わかりました。飲み物はどうしますか?」
「あ~、とりあえずコーヒーと~」
「17歳がコーヒーを好き好んで飲むか?」
「炭酸持ってくればいいんじゃない?あと水と、好きなら紅茶?」
「そうだね、そう。そうしよう。じゃあやろうかカミュ、なるべく早くね?」
「上司のミスを押し付けられる部下は大変だね~。」
嫌になってきた。
「うんそう、大変。ごめん。あとみんな、ハットかぶってほら早く!」
「いるか?これ」
「大切なんだってほらこれ!」
パーティハットを皆に投げるように渡していく。自ら招いた状況だけれど、少し前まで談笑しながらほぼ手を動かさなかった自分を恨む。馬鹿が。
「あとあれ、クラッカーみんな持って!」
「つくのこれ?」
確認忘れてた。くそ、カミュが聞かなければ確認してたはずなのに。火薬の確認をして、それで新人が来て、なあなあの始まりで歓迎会が始まっていたはずだ。ああくそ、彼女に非の打ち所がない。自分は非しかない。
「確認しなきゃ!一個、いや二個ちょうだい!」
私が少し声を大きくしてそう伝える。それと同時に、そう開かないはずのあの大きな扉が開く音がした。
「…来た?」
班員たちが声を出さず、勢ぞろいで頷く。この基地で、入り口からまっすぐここに来るまでの時間はあと少ししかない。料理を運びながら、最後の言葉を放つ。
「クラッカー、賭けよう。つくかつかないか。」
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なんかふやけた音のクラッカーが鳴る。デカ男も、チビ女も、普通の男も女も、なんか知らないけどバカげたパーティハットをかぶってる。無駄に飾られてる部屋に、机の上に大量の食事。バカげてる。
「…賭けは私の勝ちでいいね?」
「勝負に負けてちゃ意味がないな。」
「ア、アイリちゃ~ん?これからよろしくね?」
なんか賭けしてるし、勝負に負けてるし。ムカついてきた。最初からムカついてるけど。
「アイリさん、これからともに地獄を歩みましょう。カモミールです。よろしくお願いします。」
「言い方もう少し工夫しない?」
地獄って。わかっていたけど堂々と言われるとなんだかムカつく。あと名前ここで言わないでしょ普通。後で自己紹介の時間を設けるでしょ。
「とりあえず、さ?ご飯食べない?お腹空いてない?」
「俺は腹が減ってるな。アイリ、何食べる?」
なんかふざけすぎてると怒りが湧いてくるんだって、初めて知った。
「…バカにしないで」
「バカにしないで!なんなのよあなたたち!私はここに死にに来たってのに!バカげた友情ごっこして!」
湧いてきた怒りをそのまま言葉にしてぶつける。子供みたいでいやになる。
「バカって言葉を何回も言われるの初めてかもな俺。」
「今それいうことじゃないよグラ。ごめん、気に障ったかな?」
「ごめんじゃない!もう知らない!」
静止を振り切って、入ってきたドアを思い切り開いて外に出る。ここがどこか知らないけど、あそこ以外に行けるはず。ずかずかと、足音がこの建物全体に聞こえるくらい大きな音で歩く。バンバンうるさくして歩く。とりあえずどこか遠く、隠れる場所を探すことにした。
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