夏祭り

プールに行ってから1週間ほど経った。


この一週間では茜たちの家に行って2人に宿題の内容を教えたりなど、夏休みの全国民が悪として捉える部分の消化をした。


後に残してても苦痛なだけだからな...


この一週間はかなりきつかったが、課題はほとんど終わり、残りの時間はずっと遊ぶことができる。


次にくるイベントは.....


夏祭り!!!


響きだけで、もう楽しそうだ。


前の世界では勉強しながら、窓から小さく見えた花火で、その日が夏祭りなのを知ったっけな......


悲しい過去に目も当てられない。





夏祭りの夜になり、周りはようやく夕方の色になってきた。


夏は日が落ちるのが遅いな.......


俺と茜と藍は今回も約束して、祭りが開かれる神社の鳥居の前で待ち合わせをしていた。


2人は浴衣を着てくるのだろうか、少し楽しみだ。


かく言う俺は短パンにTシャツ、ビーチサンダルといった、あまりにもだらしない格好で来ていた。


だって暑いじゃん.......


モデルの藍にはぶん殴られてしまいそうなコーデだ。


「わっ!!!」


「!!!」


急に後ろから茜の声で脅かされて、無言で飛び跳ねるように驚いてしまった。


後ろをむくと茜とその影に隠れるように歩いてきた藍の姿があった。


2人は金魚のように鮮やかな浴衣を着ていた。


さすが、本物の女優とモデルが着るとクオリティが違う。


隣を通りすぎていく人たちも2人に目が釘付けだった。


それにしても俺はキモイ驚き方をしてしまった....


「ごめん、ちょっと動きキモかったな......」


「えぇぇ、そんな事言わないで」

「なんか申し訳なくなるじゃん!」

「こちらこそ待たせちゃってごめん」


「全然待ってないから大丈夫だよ」


「藍がなかなか帯を結べなくて.....」


「お姉ちゃんだってお母さんにやってもらってたじゃん!」


今日も2人は仲がいいなぁ....


「よし、なら行くぞ」


鳥居をくぐると、騒がしい太鼓の音や屋台の喧騒で、ガラリと雰囲気が変わった。


茜と藍は手を繋いで俺の後ろを歩いていた。


かわいい.....


「2人はなんで手を繋いでるんだ?」


俺は歩きながら振り返り言う。


「昔から私がはぐれやすくて、お姉ちゃんと手を繋ぐのが人混みでの癖になっちゃった」


藍が少し照れくさそうに答える。


確かに藍は目を離したらすぐにどこかに行ってしまいそうだ。


「そうだ、最初はどこの屋台に行きたいか?」


俺たちはやっと屋台エリアに入った。


「私焼きそば食べたい.....」


藍が珍しく自分から要望を伝えるなんて、俺は泣きそうだ。


「私はまずかき氷と、たこ焼きと唐揚げとクレープと、それからたい焼き!」


ん?なんか最後少し変な食べ物が聞こえた気が....


てか、茜ってそんなにいっぱい食べるのか?


「たい焼きって祭りで食えるのか?」


「え!?もしかして祭りには普通ないの?」


「俺は見た事ないぞ」


俺が答えると、茜はなんだかしゅんとなって悲しそうだ。


「あればいいな!」


「うん...」


「まずは焼きそばでも食べに行くか!ってそういえば藍はどこだ?」


俺と茜は周りを見渡す。


「あ!いたよ!もう焼きそばの列に並んでる!!」


茜の指さした方を見ると、人混みに今にも潰されそうにしながら、身を震わせて列に並ぶ藍の姿があった。


そこまでして食べたいのか.....


早速はぐれてしまったのかと思った。


この祭りでは絶対に俺の前から居なくならないでくれよ。


俺と茜は藍が並ぶ列の方へと歩みを進めた。


「俺が並んでおくから、2人は食べたいものの所に行ってきな」

「もちろん焼きそばはちゃんと藍に渡すから!」


「ありがとう....」


「ならまた後で連絡するね〜」


茜はそう言って藍に手を伸ばし、藍は安心したように再び茜と手を繋ぎ直した。


茜が楽しそうに歩き出し人混みの中に消えていった。


さてと、待ってる間に英単語でも勉強するか。


俺は短パンのポケットからスマホを取りだす。いや取り出せなかった。


「あれ?なんで無いんだよ」


たしかに俺は家から持ってきたはずだ。


ということは.........この広大な祭会場で俺はスマホを落とした.....


俺は焼きそばの列が進んでいることも忘れ絶望していた。


それが意味しているのは茜と藍、2人とはぐれたということなのだから.......


続く

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