猫が喋ると…

ある日、俺はふと思いついた。もし猫に人間の言葉を話せるようにしたら、どんなことを話すだろう?猫が何を考えているのか、興味はあったし、実験してみようという気になった。


ネットで調べてみると、猫の声帯を使って言葉を話させるなんて無理だと思っていたが、ある研究者が猫に音声合成装置を使う方法を提案していた。それをヒントに、俺は自分で装置を作り、猫のミケに試してみることにした。


装置を猫の首に装着し、スイッチを入れると、ミケが何かを感じたようで、少し動き回った。しばらくすると、その小さな体から初めて聞く言葉が発せられた。


「なんだよ、これ?こんなものつけられて、マジで気持ち悪い。」


俺はびっくりして、その言葉を聞いた。まさか、こんな風に言われるとは…。ミケが話すとは思っていなかったけど、驚きと興奮が入り混じった。


「ミケ、君、言葉を話せるんだ!」と喜んで言うと、ミケは軽くため息をついた。


「いや、知ってるよ。君が勝手にこれつけてるだけだろ。何か面白いことでもあると思ってたのか?」


その時点で、ちょっと戸惑いが生まれた。でも、まだ良い方だと思っていた。猫が悪口を言うなんて、想像できなかったから。


「どうしてそんなに悪態をつくんだ?ありがとうって言ってもいいんじゃない?」と俺が言うと、ミケは冷たい目で俺を見てこう答えた。


「ありがとう?うるさいな、お前、もう一度寝かせろよ。そんなに声かけてくるのウザいんだよ。」


驚きと共に、ミケがまさかこんな言葉を使うなんて信じられなかった。さらに、数日が経ち、言葉を覚えたミケは次第にその悪口をエスカレートさせていった。


「お前、またその髪型?中学生みたいでダサいんだよ。鏡見てる暇あったら、俺にご飯でもよこせ。」


「お前がその服着てる姿、ほんとにどうかしてるよ。どこかで見たことあるけど、ああ、確かゴミ袋に似てるんだ。」


「あ、どうせまたご飯の量減らしてんだろ?貧乏くさいんだよ。」


俺はすっかりへこんで、ミケの言葉に傷つきながらも、ついに考えた。「これって、もしかして、猫って本来こういう性格だったのか?」


それから、どんなにミケに話しかけても、悪口が止まらなかった。まるで俺の気持ちを逆なでするように、毎日毎日、猫の口から放たれる言葉は容赦なかった。


「ねえ、まだいるの?邪魔なんだけど。」


「誰かと一緒に出かける?そいつって絶対、つまんない人だよね。お前、何もかもダメだな。」


最終的に、俺はこの実験を諦めた。猫に言葉を話させることで、思っていた以上に俺の自尊心がズタズタにされていた。


結局、猫のミケにとって、言葉を話せることが幸せでも、俺がその悪口を受け止めることができなかった。ただの試作品だったはずの装置が、こんなに悪夢のような結果を生むとは思わなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る