本当に歩んだ、霊の一説

リーテ

金がじゃらじゃら虚しく鳴る

 実話。閲覧注意です。


 小学生の頃。勉強が苦手だった私は、九九が言えなかった。みんなの前で唱えなければいけないそれは、怖くて怖くてたまらなかった。ある日、「ニノ段も言えない奴がいる!笑」と、先生に、みんなの前で見せしめにされた。それが、地獄のはじまり。

 親は、それを深刻に思ったのか、塾に通わせた。その塾は、人数が少なく、知り合いも数える程度。先生とも話せて、自分でいられた。はじめて、勉強を楽しいと思えたのだ。それは、良かった。お楽しみ会や体育がぶっ潰れて、全て算数になれば良いのにと思える程度に。


 学校は、苦しくて息ができない。


 そこで私は、本能的に、僕を呼び出した。僕は、いつもにこにこして、大人に従順。大人の笑顔を求めて、勉強を頑張った。だって、みんなが喜んでくれるんだもん。給食も、おかわりしてまで食べた。


 え?胃袋が破れそう?


 僕に、からだはない。つべこべ言わずに食べて、先生を喜ばせなさい。残したら、悲しむでしょ?僕のまわりは、喜びで満ちていないといけないんだ。


 僕は、たったひとつの両手を操り、中学生になれた。運動部に入れば、将来という誰かさんに褒められる。帰宅部なんて、もってのほか。僕は、私を破り捨てた。将来という偉い人が笑顔になることを目指して、黙って従っていればいいんだ。


 運動部に入った僕は、スパルタゆえに限界を感じた。


 あたし!怒られてもくじけないの!あたしは、役立たずな僕を殴って追い出し、模範を探した。あの子なら、先生に怒られてない。試合中でもにこにこ会話している。あたし、その子になる!

 こうしてあたしは、あの子であり続けた。表情のクセや、筆圧なんかもそっくり。でも、そっくりって、人に嫌われるよね?あたし、そこまでバカじゃないの。少しズラせばいいのよ。そして…。あの子は古いと感じたら、別の子に憑り移れば良いだけのお話。なんだ、簡単じゃない。あたし、中学生のコツを理解したわ。


 あたしは、本気で優等生だった。

 

 なにかは忘れたが、成績で1位を取ったこともある。苦手な運動部にて、1.2位を争っていた。顧問から、エースと呼ばれたことも一度だけ。私はそう呼ばれ……。とても傷ついた。先生、お母さん、どこを見ているの?私はここよ?

 私たちは、中学を漂う道中、親が離婚。転校。という、最大級の幸運に恵まれた。今のこの環境を出て行けると知り、顔がほころんだものだ。友達は泣いていたが、私たちは泣くふりをして、にこにこ笑っていた。顧問も、エースがいなくなって、残念な表情をしていた。私は初めて、勝ち誇る。そして、こう学んだ。


 人の前から実体を消せば、生きていることを証明できる。


 転入先では、物珍しさゆえに、全員から脚光を浴びた。居心地の良いような、悪いような、もう覚えていない。ここで難関となったのは、言語の壁。ちっぽけなここ島国にも、境界線によって、いろいろな個性があるんだ。

 俺は、〝ココ〟の標準語を慎重に探った。注目を浴びたくない俺は、〝ココ〟のにんげんに化けようとしたのだ。口数を最大限まで減らし、淑やかな少女を装い、馴染もうとした。ちなみに、あたしが積み重ねた学歴は、少しばかり落ちぶれた。積極的に手を上げないと、5を貰えないからね。


 そして俺は、そこそこの名門に受かり、褒められた。


 平和な世を築けた。俺は、世界で一番幸せだ。親がこの上なく喜んでいて、他のみんなもにこにこしている。世界の安寧こそ、俺の幸せ。私たちは、人々の笑顔に安心し、ちっちゃな天国を作り上げた。

 しかしその天国は、大自然のままに崩れ落ちた。

 受かった高校での日々は、覚えていない。

 高校ではなく、刑務所だったのかもしれない。私たちではない誰かが、身代わりとなり、散っていった。何人死んだのか、把握できていない。だって、からだはひとつしかないんだもの。私たちは、屍の国にしながら、無理矢理にして大学へ進んだ。


 就活。


 適さない者は、蹴り落とされる。おかしいとは思わないか?強きものだけが生き残る世界を。私たちは、学んだ。にんげんも例外なく、地球内生命体であること。それから先は、語りたくない。突き詰めたなら、全てに絶望するだけだ。


 空っぽ。


 私たちは、ひとつのからだに、涙をいっぱい溜め込んだ。あの子は、牢屋にぶち込まれ、処刑されたからだ。欲求を露わにする大人や子どもに、ゴリゴリ痛ぶられた。あの子の涙の代わりに、じゃらじゃらと金が鳴る。

 見立ては、うつ病。

 万人いわく、死んではいないらしい。たしかに、あの子は消えても、私たちは残っているのだから。操り人形は、こうして両手を繰りて、なにをしたいのだろうか?エサを貰う空っぽな日々。出て行こうにも、どこもかしこもにんげんさんの縄張りで、地獄だ。実体のない私たちは、空っぽな心でなにをしたい?分からない…。憎悪の炎が、私の意思とは関係なく、心のどこかで燻っている。

 



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本当に歩んだ、霊の一説 リーテ @Loup_Dina

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