第5話

「そろそろだ」

と親父の声が聞こえる。

「くれぐれもよろしく頼むな」

私は吐き出されるように現実に引き戻される。

はあ、とその声を出して気がつくと

化粧鏡に立っていた。

ここは、ここは現実の世界なのか?

私はその扉をくるっと捻り、その足を進めた。

やはり先ほどのバーである。

私の席にレッドアイが置いてある。

飲みかけではない、

出された状態で置いてある。

私はその席へと座り込み、

バーのマスターへと声をかけた。

「マスター、あれって」

マスターは余白を開けずこう言った。

「ここは月に一度、

会いたい人に会えるように

作られた場所なんですよ」



「おかえり」

と声をかけてきたのは娘の葉月である。

私は玄関の前に佇んだ彼女に

向かってただいま、と返す。

潤ったその目から

綺麗な光が見え、こう言った。

「恵美姉ちゃんも見えているかな」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る