夜が明ければ彼女は
こてぃ
夜が明ければ彼女は
明け方。遮光ではない薄いカーテン越しに漏れ出た陽の光で目覚める。
私に背を向けて眠る彼の髪から匂いがする。
ホテルに置いてあった、同じシャンプー、同じ石けん。
鼻腔をくすぐるほのかな香り。
同じもののはずなのに、どうしてこんなに違うように感じるのだろうか。
一回りも歳が離れた職場の先輩。
「おじさんをからかうんじゃないよ」と何度も言われたけど、昨日、飲み会の後に二人きりでお酒を飲んだ後には、もうそのささやかな恋心を心の中に押しとどめて、隠しておくことができなかった。
幸いにも独身。既婚者じゃない。
でも、付き合えない人。
振り向いてくれない人。
本気になってくれない人。
そんな人との夜は、他でもなく、一夜の過ちだった。
ふと、寝ている彼の髪を撫でる。
ワックスもつけていない髪の、意外と癖があり柔らかいそれに、知らなかった彼の一面を、また一つ、知ってしまう。
小さく息を吐いて、ベッドから降りた。
起こさないように気を付けながら、身支度を整える。
「責任を取ってください」と彼に迫れば押しに弱い彼はもしかしたら付き合ってくれるのかもしれない。
「私はこんなに好きなのに」と彼の胸で夢見る乙女のように泣きじゃくれば、この関係を引き延ばすことができるのかもしれない。
———でも、そのどちらもできない。
そのくらいの理性も、分別も、朝の私には残っている。いっそ捨てられたらいいのに。こんな私だから、選ばれないのかなと自嘲めいた気持ちになる。
眩しい朝日に手をかざす。
こんな日にも分け隔てなく陽はのぼる。
二度と手に入らない眩しさを、私だけは、ずっと覚えていようと思った。
夜が明ければ彼女は こてぃ @kadhi
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