七章 1
「お願いします、お父様」
「私からもお願いします、マクロン様」
私はすぐにお父様に会いにお父様の書斎にルーナと一緒に行った。入った後に驚いた顔をしていたけど、すぐに話を聞く顔になってくれた。
「お願い――とは?」
いつも私と話すとは違う一人の貴族としての顔を見せるお父様。でも、それには臆さない。
「彼を……死神の捜索を私に任せて欲しいんです」
その言葉を聞いた時、お父様は顎を手で触り、私のことをじっと見つめていた。
「お前はもうすぐ、学園に入学する。捜索は長くても二ヶ月しかない」
「わかっています」
お父様は淡々と伝える。
「彼は死神の名の通りに名は知れているが、顔も我々が見たのが初めてだろう」
「……そうですね」
その事実を。
「王国の諜報機関ですら返り討ちに遭い、何年も逃げ続けている」
「……」
どれだけ彼を捕まえるかが難しいかを。
「それでも、やるのか? せっかく立ち直れたんだ、このままでもいいのではないか?」
確かに、私がすごいのは身体能力だ。捜索なんて当然初めてだし、その手のプロの彼を捕まえるなんて無謀だろう。
「それでも、会いたいんです」
「……!」
その声を、言葉を、顔を感じたお父様は目を見開いていた。
「お父様、私は自信がありませんでした」
「ルミエル……」
「突出しすぎた身体能力。馬鹿げていますよね」
今度の言葉はお父様の心を抉ってしまったのだろう。非常に苦々しい顔をしている。
「私だって、こんな力が欲しいなんて思っていません」
「……」
「でも、私嬉しかったんです」
「――何故?」
ふと落ちてしまったのだろう。ハッとした顔をしていた。
「お父様は私のこと好き?」
「ルミエル、お前敬語を……!?」
「答えて?」
やはりすぐに気がついた。
「もちろんだ。私も、サマランも、当然この屋敷の者全員、お前のことが好きに決まっている」
「ありがとう、私も好き。でも、怖かったんだ」
「それは……力か?」
「ううん、嫌われるのが」
ずっと殻に閉じこもっていた。力を振るうのが嫌いだったわけじゃない。
「力を振るうことで喜ぶ人がいるのは知っていた。でも、それを怖がる人もいる」
「そうだな。人は知らないことを怖がってしまう生き物だ」
「そう、そんな私をみんなは変な目で見なかった」
それ自体はとても嬉しいことだ。自分みたいな化け物が人間でいれた大きな理由にはなるだろう。
「優しかったから取り繕った。私を見る目が変わってしまうのを恐れて」
「それは貴族としてはいいことだな」
「それじゃあ、ダメだったんです」
上辺だけの綺麗な女の子。確かに正しいのかもしれない。そうすべきなのかもしれない。でも、それじゃあ、私は何も変われていない。ただ誰かを騙し続けるだけ。肉体的だけじゃなくて、本当の意味で対等になれない。
「なら、彼は関係がないじゃないか」
「確かに彼はきっかけだけだった。本当なら探す必要なんてないかもしれない」
「なら「でも、それだけでじゃない」……」
「彼にも何かがあるのがわかったから」
「親切心で彼を助けるのか? そうしたところで助ける算段でもあるのか」
その言葉を聞いて、私は言葉に詰まった。これまで壊すことしかできなかった私が何かを助けることができるのか。やったことはない。できるのかはわからない。だけどやるしかない。
「考えのないならやめておいたほうがいい。悪戯に時間を浪費するだけになる」
「考えは何もない……」
「そうだ、お前がどれだけ素晴らしいかは親の私もよくわかっている。
やっぱり、お父様は優しい。彼のことをよくわかっているからこそ、私のことを思っているからこそ、今の私に厳しく接している。
「でも、わかります」
「何がだ?」
「彼はもう一度私を殺しにくる」
別れ際の一言。そして、決別の理由。彼は私が学院に行くことを知っている。王都にある学院での暗殺より、まだ領地にいる方がいいだろう。
「彼がターゲットを放置するわけがない。だって彼は最強の死神なんだから」
「自身を撒き餌にするつもりか」
「はい、私が彼に入るように情報を出し続ける。意識せざるを得ない状況を作るんです」
この作戦の1番の賭けだ。撒き餌であることはすぐに把握をするだろうが、それに対して彼がどんな形で動いていくのかがわからない。あの言葉を誰かに言うつもりもないし、彼の抜けた理由は私しか知らない。
「確証はあるのか?」
「彼を信じるしかない、来るって」
「もういいんじゃない?」
そんな私たちの会話を遮る存在が扉を開けて、少し申し訳なさそうな声を出した。
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