四章 1
ラクレエ村での一件がマクロンの手で対策も取られて一応の終結を見せてからかれこれ二週間。俺はルミエルの部屋でどうルミエルを殺すかの計画を練っていた。――当然、紙に書き起こしているわけではない。頭の中で完結をさせてはいるぞ?
「え、一緒に王都に行かないか?」
「ええ、お父様が未知の魔物の件で国王と騎士団長に説明をしなければいけないらしくて」
「そのために俺から離れたのか」
「ええ」
そう、さっきまでルミエルが部屋にいなかったから、俺は十人の騎士に囲まれて考え事をしていた。この会話も急に部屋から出ていって、結構すぐに戻ってきたルミエルが勝手に始めただけのものなので当然騎士たちもその会話を聞いていたし、そしてルミエルの部屋は豪華絢爛な部屋というわけではなく、それは最低限のものこそあれどそこそこ大きい騎士たちが十人入るにはいささか狭いものがあった。そのことをルミエルは感じたのだろう。
「もう出ていて大丈夫ですよ」
「ルミエル様、しかし……」
「私が大丈夫だと言っているのです」
「……わかりました。では失礼します」
いささか強引ではあったが、まあ俺としてもむっさい男だけの空間にはあんまり居たくはなかったし、それはそれとしてこれからの会話には絶対騎士たちは必要ないなんてのは確定事項すぎて一刻も早く持ち場に戻ってほしくはあった。
「それで王都に行くって言ったて何かすることあるのか?」
「私自身には特にそういうのはありませんが、王都に行って、お父様のお手伝いしかしていないのでしっかりと王都を巡ったことがないんです」
「それを知っているマクロンから王都の散策を提案されたってわけか」
「ええ、それでどうしますか? 来ない場合には先ほどみたいに騎士を常に付けることになりますが」
それは嫌だな。流石にそれされるくらいなら着いて行ったほうがマシだ。女性との買い物には嫌な思い出もあるが、何人の騎士がつけられるかわかったものじゃない。ある程度自由を縛られるがルミエル暗殺の機会がまだある王都へついてくほうが何かと好都合だろう。
「わかった。ついていこう」
「……! ええ、一緒に行きましょう!」
「なんだ、急にテンション上げて」
こう言ったらなんだが、ちょっと気味が悪い。感情の起伏があんまり激しいほうじゃないとは思っていた。それは少しくらい変わり者ではあるというのは十分に承知しているが、見かけ上丁寧な印象こそ受けるがどこかチグハグしている、特にシュバルツ山をみた直後くらいから感傷に浸ることが多くなった。
「すこしでもいい思い出になるといいな」
「え……頭、大丈夫ですか」
「なんだ、その言い草は。殺される前の思い出にしておけ」
この脳筋バカにだけは頭がおかしいなんて言われたくなかった。それは当たり前のことだろう。体当たりで生命を奪えるこいつこいつだ。感傷に浸っていようが、それはこいつのどことないおかしさが滲み出てるんだよ。てか、仮にも心配してやった俺に対して頭がおかしいなんて言い方なんてさすがにおかしいだろう。
「まるで私だけおかしいなんて思っているようですが、そもそも執事になってまで私を殺そうとするのはどうかと思います」
「執事になるように言ったのはお前だな、しかも脅し文句までつけていたのはそっちだぞ」
「そんな記憶、私にはありませんよ?」
何ぬかしてんだ、こいつ。勝手に記憶の改竄なんてされてしまったら変人度がさらに加速して行ってしまうではないか。これでも淑女教育はしっかりと完成されているんだから仰天ものだな。
そして、王都に向かう日がやってきた。今回はミンフェル家全員で行くことになっている。御者はまたしてもルーナが担当しており、馬車の中にマクロンとサマラン、ルミエルと俺の四人が座っている。俺の監視のためとはいえ、領主一家と一緒に馬車に乗るとは思ってもいなかった。
「ミンフェル領から王都までは大体三日で着く。それまでの間よろしく頼むぞ」
「わかったよ、まあこの期間くらいは暗殺しないでやるよ」
「それはつまらなくなってしまうので是非とも継続して欲しいのですが」
「それに巻き込まれるのはお前の両親だぞ」
「そうよ、私とマクロンさんではお遊びにはついていけませんよ」
「あれをお遊びで済ましていいのか?」
やはり、マクロンはミンフェル領の良心だな。唯一の真面目役のような感じになっているがそれが故の哀れ感が増しているのは悲しいところだな。やはり、貴族として一般の感性も有しているのが大きいのだろうな。ミンフェル領で留まっているというか領都がレベルが違いすぎるだけだな。あそこは完全に毒されている。逆にいえばラクレエ村の村民はそんなことなかったな。
「そうですか、ならあなたのことを教えてもらえますか? 暗殺者としての経歴でも構いませんよ」
「それはまた答えづらいオーダーだな」
「私も少々気になる話題だな。君の経歴は噂に聞いたものだけでもとてつもないからな。」
「そんなに面白いものでもないぞ」
俺の暗殺は昔ならともかく最近のものは特に面白いものではない。最近はもっぱら貴族相手にしかしないし、したって前の騎士団長の暗殺をしたくらいだし、それも大概ルミエルのせいで不完全燃焼感の強すぎるものになってしまった。
「そうだな、前回の暗殺なら――」
俺は王都に着くまでの三日間、俺が暗殺者を始めたてのこと以外なら大体のことを話したつもりだ。まあ、あまり変わり映えのするものではなかったが、ルミエルはすごくワクワクした顔でこっちを見つめていたので、やっぱ、こいつおかしいなんて思いながら馬車にガタゴト揺られていた。
「そんなにたくさんこなしていたんですね。それで私は誰に狙われたのかを教えてくれませんか?」
「それは絶対に無理だな」
流石にあいつが苦手だとはいえ、それをしてしまえば今、執事もどきをしている以上に暗殺者としての信用はガタ落ちするだろうし、そもそもそんなことを話すくらいに主従関係が構築されているわけではない。
そんな与太話をしていると、ついに立派で荘厳な城とそれを囲むような大きな城壁が目に見えてきた。
「ようやくついたのか」
「ええ、あれがこのランデン王国の王都ランデンですね」
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