三章 2

「では、お父様、お母様行ってきます」

「うむ、道中も気をつけるんだぞ。……そんなに荷物いる?(ボソッ)」

「初めての公務頑張ってね。女の子なんですから必要ですよ!(ボソッ)」

「わかりました。役目はしっかりと果たさせていただきます」

 ついにやってきた領地視察の仕事。おおかた予想していたようについていくのは御者と身の回りの世話を兼任するルーナと護衛の騎士が二人、そして俺とルミエルの少数だった。これで済ませてしまうマクロンも大概だとは思うが、まあそれほどまでにルミエルのことを信頼しているんだろう。騎士も手練ではないが、ただ守られるような練度ではないだろう。

 そうすると、見るからに邪魔になりそうな荷物を持ってルミエルが馬車に乗り込んだので、ルーナは御者用の服にいつの間にか着替えていて運転席に座り俺もそれに付随する形で馬車に乗り込もうとすると、マクロンが俺に話をかけてきた。

「では死神君、娘をよろしく頼んだぞ」

「せめて俺以外にその言葉をかけるべきだと思うが」

 俺に対してルミエルどうこうを言うのは絶対間違っているんだが、まあ頼まれたんなら任されんことでもないし、こんなところで事故死なんてされたらこっちが萎えてくるわ。ルミエルを殺すのは俺だ。

「お父様、死神を早くのせてあげてください。早めに出発しないと予定の宿に泊まれません」

「ルミエルに言われてしまったな。まあ、今は魔物の頻出する時期出ないと言うし気楽に行きたまえ」

「了解。んじゃ、行くわ」

 俺は結構気楽な感じを出して、ルミエルが待っている馬車に乗り込んだ。

「では、改めて出発致します!」

 御者になったルーナの合図で馬車は勢い充分に出発した。

「お父様はなんと?」

「お前をよろしくだってさ。俺はあんまし心配してないけどな」

「何を言ってるんですか!? そこはお前のことを絶対に守るって言うのが定石じゃないですか!」

 こいつは何を言っているんだろう? そもそも俺がルミエルを守る事態なんてほぼ絶対に起こるわけがないのに。だってこいつ、俺より余裕で強いし。こいつに助けが必要なときは精々武道の達人が戦闘を仕掛けたくらい……なんか起こりうる事態な感じがしてきたな。ルミエルはズブの戦闘素人だ。負けないが勝てないみたいな感じになって、と考えると発生しうるな。警戒はしておくか。

「分かったよ、面倒ごとになったら引き受けてやるよ」

「むう、そういうことではなかったのですが、お嬢様どうですか?」

「ええ、嬉しいです。しっかりと守ってくださいね」

 だいぶ和気藹々した雰囲気で公務は進んでいった。馬車の外はのどかで平和そのものであった。そして大した出来事もなくラクレエ村に行くまでに幾つかの村の様子も視察した後、ついに目的地のラクレエ村に到着をした。

「あっけない旅路でしたね〜」

「あまり気の緩めないようにしていましたがこうものどかだとついつい気が緩んでしまいます」

「はあ、ここで一週間間視察だろ。魔物の活発化は今は頻発の時期ではないが警戒だけは怠るなよ」

 今は時期ではないと分かっているが、この村に着いてから魔物の獣臭い雰囲気が匂ってくる。これは一波乱が起きるかもしれないな。それでも、この付近の魔物程度なら騎士だけで十分な感じもするがな。

「分かっていますよ、いざという時はルーナを頼みますね」

「ここで戦えないのはルーナくらいしかいないもんな」

 初日だから、今日のやることはないが明日の視察に備えておかないといけないからな。俺はついていくだけでやることはあんまりないんだが、適度に暗殺して適当に過ごしておけばいいだろ……そんな甘ちょろい考えをしていた自分が恨めしく思ってしまう。ルミエルの性格というものを理解し得ていなかった自分にも非はあるにしてあのルミエルが俺の常識で収まる行動なんてするはずないってなんで思わなかったんだろう? まあ、デカすぎる荷物で気づけたのかもしれないが、どっちにしろ……

「なんで、貴族令嬢のお前が農作業してんだよ!!」

 なんでルミエルは黙々と土いじりしてんだよ! なんでこうなったんだよ!?

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