職場で一番つらかった日

一郎丸ゆう子

職場で一番つらかった思い出。誰かあの日の私を慰めてくれませんか?

 結婚して8年、子供ができず、もう出来ないんだろうなと思っていた時妊娠した。


 当時は小さな会社でパートで働いていた。


 こういう時、たとえ本音でなくても


「おめでとう」


 の空気を出すものだと思っていたけど、小さな会社では一人欠けると他者への仕事の負担が大きく、おめでとうより仕事どうなる? の嫌悪感をあからさまに示してこられた。


 でも、その意地悪さにもちょっとした優越感を感じていた私だったが、まもなく流産してしまった。


 ほぼほぼ健康体な丈夫だった私は、自分は大丈夫だと思っていたのでショックだった。


 そして、2日入院して退院。その日はまだ微熱があり、大量に出血したらしく貧血状態で体調が悪かったため、会社に挨拶だけして帰るつもりだった。


 でも、会社に行くと古株のパートさんに満面の笑みで待ってましたというように、いきなり仕事の段取りをまくし立てられ、私は何も言えなくなり、仕事を始めた。


(ああ、来ないで電話して休めばよかった)


 仕事だからしょうがないか、と思いながらなんとか終業時間になると、社員の独身女性が食事に誘ってきた。


(はあ、誘うか普通!)


 もちろん断ったんだけど、ものすごい嫌味やらを言われ、断れなくなった。いまや何を言われたのか覚えていないのだけど。


 この時間、もう2人いるパートさんは時間で帰っていて、私と社員の2人の3人。この2人、古株のパートが帰ると急に態度を変え、強気になる。


 もっとはっきり断ればよかったんだろうけど、体力がない時って、人はYESと言ってしまうって知ってます?


 NOと言うのはYESというのの何杯ものエネルギーを使うらしいです。


 まあ、座ってご飯食べるならいいか、と思って行きたくもない食事会に行き、食べたくもないものを食べ、やっと帰れると思ったら、独身女Bが言った。


「CD借りたい」


 いや、そんなもん勝手に借りりゃいいだらうと思いながら、なぜか口が


「いいよ」


 と動いてしまっていた。


 CD借りるだけならいいか、と思い店に入ったら、その女C D 選ぶのに30分以上も迷ってて、全然決まらない。なんで他人の聞くCDのために貴重な人生の時間を浪費させられにゃいけんのか!

 ああ、あの時断らなかった自分に腹が立つ。


 微熱があって、貧血状態だったので、立っている足が震えていたけど、必死に耐えていた。ここで倒れればいいのに、基本丈夫でしぶとい私の体は土俵際で耐えてしまう。なぜだ!?


 次の日、食事に行ったことを知った古株のパートさんが


「行ったの?」


 ってびっくりしてて、泣きそうになった。小さな会社だから本人のいないところで訴える場所がなくて、ひとりで耐えた。体調不良は会社を辞めるまで続いた。


 その半年後、また私は妊娠し、その娘はいま19歳です。


 ふたりでお茶当番をしているとき、独身35歳の女Bが、妊娠して退職することにした私に言った。


「私、一郎丸さんが子供連れてきたら、無視する」


 私は、Bが一生結婚できませんように、と呪いをかけ、会社を去ったのだった。








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職場で一番つらかった日 一郎丸ゆう子 @imanemui

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