第2話 シーファウは日影の中

 シーファウの気配は全然しなかった。アイリーナは飛び上がるように驚いた。


「あ、あ、あの。『またね』ゲームをしてました」

「『またね』ゲーム?」


「みかんが好きな童話のシーンを、一緒に再現しているんですよ。『またね』って別れた姉妹同士が、すぐに再会する場面を」


「再現……」


「童話の登場人物の真似をして、再会の感動の気持ちを味わうゲームです。ねー、みかん。『また会えた』うれしいよね」


『うれちっ』


「ふーん……」


「主人公は、仲がいいカワセミの姉妹です。巣立ちして別れるはずが、運命の糸で結ばれていて、一日に何度も再会するんです。そんな運命の姉妹みたいにわたしたちもなりたいんだよね。ねー、みかん」


『ねーっ』


「相変わらず仲がいいね、アイとみかんは。でもオレ抜きでゲームをしたんだね?」


 シーファウは『オレ抜きで』の部分を強調する。


「こういうのってなんていうんだっけ。ああ、仲間はずれかな? アイはどう思う?」


 次に『仲間はずれ』を強調した。

 もしかして、一緒にゲームがしたかったのだろうか。まさかこの大人びた王子が、『またね』ゲームをしたがるとは思わなかった。


 彼の感情は難しい。想像もしないことをよくする。


「大事な大事な兄上を仲間はずれ。アイは罪な女性だね」

「兄上ですか?」


「ああ、オレはみかんの義兄上だよ。愛しいアイとみかんが姉妹なら、みかんは将来、オレの義妹だからね。」


 そして、彼は話の内容も難しい。


 シーファウは微笑しているが、アイリーナは彼の姿に日影を感じた。なぜだか分からないが、彼はかなり怒っている。


 今日はよく晴れていて、展望台は陽だまりの中だが、シーファウだけが影の中にいるようだ。


 アイリーナは目をこする。

 ……また、シーファウが闇の王子に見えてきた。

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