異世界の夢を 深窓の王子と 番外編 ぽかぽか春には、みかんとゲーム

近江結衣

第1話 ぽかぽかな春の午後


 ぽかぽか陽射しの午後。、ドーナツ型の雲が流れていく。


 アイリーナたちは、離宮の展望台で『またね』ゲームを楽しんでいた。

 『またね』と別れたあと、再会の感動を楽しむ遊びだ。


「じゃあ、みかん。またね」


 アイリーナが手を振ると、愛犬のポメラニアン、みかんはにこにこうなずいた。


 みかんはアイリーナに背を向ける。とことこと駆け出して、展望台の花壇の向こうに姿を消した。

 そのまま身を低くして、花壇の間を駆け回る。みは隠れる場所を探しているのだ。たまにふわふわのしっぽが見えた。


 みかんのしっぽは花の向こうを駆け回り、やがて見えなくなった。


 この展望台は花がいっぱいで華やかだ。

 さすが、王太子の離宮だ。


 いち。

『にい』

 さん。

『し』

 ご。


 アイリーナたちは数を数える。心の中で数える約束だが、みかんは声に出していた。


 十数えた後で、アイリーナは隠れているみかんを探す。『またね』ゲームは少しかくれんぼに似ている。


 みかんは菜の花の影に隠れていた。アイリーナが見つけても、みかんは不安そうな顔をしている。

 すぐ見つけてもらえると分かっていても、離れるのは少しだけ怖いんだろう。


 いい子いい子すると、ぶんぶん、ぶんぶんしっぽを振った。


 みかんを見つけるこの瞬間は、ゲームの一番の楽しみだ。


「また会えたね、みかん」

『うれちっ、うれちっ』

「こんなにすぐ会えるなんて、もう運命だね」

『アイ、大ちゅきっ』


 アイリーナとみかんは、いつものセリフを繰り返した。


「なにやってんの? アイ」


 ふいに、背後で声がした。いつ来たのか、シーファウがアイリーナの真後ろに立っていた。

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