ステレオンハート

とねふみや

1


 ——パチパチパチ……


 拍手の音と、常にどこからか聞こえるヒソヒソ話。


「じゃ、次の人」


「はい」


 桜の花びらが舞う四月。


 新しい環境。


 街並みも、喧騒も、時の流れも、風の匂いも。


 何もかも、慣れ親しんだ地元とは全く違っていた。


 不細工なネクタイを閉めて、ゆっくりと息を吸う。


「来栖玲央です。地方から出てきて、一人暮らししてます」


 気持ちばかり深く頭を下げる。


 話すのが少し速すぎたかもしれない。


 それより、ちょっと噛んだような。


 そんなことばかり頭によぎる。


 拍手も前の人よりまばらなような気がした。


 ……いや、それでもいい。


 ここからだ。


 これから始まるんだ。


 これが俺の第一歩になる。


 期待を胸に、ゆっくりと頭を上げ、クラスメイトたちを見渡す。


「——……ふあーぁ」


 そんな幻想を早くも打ち砕いたのは、呑気にあくびをする女子の姿だった。


 ずっと興味なさそうに突っ伏して寝ていたのに、俺の番が終わるや否や、むくっと身体を起こし、そろそろ私の出番か、とばかりに伸びをした。


 小柄で、長くて特徴的な癖っ毛。


 黒目はビー玉のようにコロッとしていて小さい。


 そして一つ一つの動作はぎこちなく、どれもウチのおばあちゃんを思い起こす。


「——獅子尾もも、です。あんま話すのは得意じゃないです。よろしくお願いします」


 明らかに俺の時よりも拍手はまばらだった。


 大体、友達なんてつくる気ありません、って感じだ。

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