第2話

小屋には、硬いベッドの上に藁が積まれ、その上に薄汚い布が敷かれている。

支給も販売もされておらず、身の回りの備品を補修しながら使い回していた。

キッドは、そのベッドにエルフを寝かせた。

そのまま、キッドは棚の中からパンと、ワインを取り出した。

小屋の窓際には、牛肉を紐でくくりつけてぶら下げていた。

少し黄色い脂を分泌させる、牛肉の干し肉である。

干し肉を下ろすと、ナイフで削る様に干し肉を加工していき、一食分を作った。


「ふ……う」


小屋の端に腰を下ろして、キッドはパンを齧る。

粗悪なパンだった、咀嚼をするにも顎を使わなければならない。

老人であればスープに浸して食べるが、それにしても味が悪かった。

何度も何度も咀嚼を繰り返した末に、キッドは飲み込む。

そして、ワインを瓶のまま、一口を飲み込んだ。

酒に酔う為に、ワインを飲むワケではない。

薬膳酒の様なものである、アルコールを摂取すると、肉体が暖かくなる。

即ち、生命力が強くなると思われており、肉体を強くする為に必要な生命の水であると信じられていた。


「ぐえ……うぷ」


しかし、キッドには未だ、ワインの味が舌に慣れなかった。

基本的に、ワインはコップ一杯分であると決めていたが、胃の調子が悪い為か、その一口で飲むのを止める。

後は、干し肉を齧っていた。

そして、ベッドの上で眠るエルフをただ、呆然と見詰めていた。


「女を見るなんざ、何年振り、だ?」


キッドはそう思いながら、エルフに近付いた。

実に淫靡である、その寝顔すらも、人を誘惑する甘い顔をしていた。

思わず、そのまま襲ってしまいたい衝動に駆られる。

無理も無い、女の肉体を知らぬまま青年を迎えたのだ。

性欲の発散の仕方も分からず、本能が女を求めていたのだ。


はち切れんばかりの感情を抱くキッドは、理性で何とか抑えながら、ゆっくりとその場を離れると、椅子に座った。


「落ち着け……たかが、女だ、何を興奮してんだ、俺は」


感情が昂って仕方が無かった。

気晴らしが必要だと考えたキッドは、テーブルの上に置かれたランプに手を伸ばす。

動物の脂で作られたランプ、マッチを使い火を点すと、焦げた臭いが鼻を突いた。

そのまま、テーブルの上に、ガンベルトを置くと、整備用の道具をテーブルから取り出して、回転式拳銃を分解し始めた。


「マメに掃除をしてやらねぇとな……」


狩猟の道具として使われる回転式拳銃。

父親の形見でもあるそれを、部品一つ一つ、丁寧に掃除を行った。

自然と、そうする事で心が落ち着くのだ。

結果として、キッドはエルフの事よりも、回転式拳銃の掃除に心を奪われていた。

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