第5話 ブレッドよりー絵葉書の向こうに広がる冒険
親愛なる孫たちへ
おばあちゃんは今、スロベニアで一番美しい湖があるブレッドという街に来てるわ。
青く澄んだ湖の真ん中には、小さな島が浮かんでいて、その上に白い教会が建っているの。
まるでおとぎ話の世界みたい。
でもね、この島にはちょっと不思議な伝説があるのよ。
今日はその話を書いて送るわね。
まず、おばあちゃんは湖のほとりからプレトナ船という伝統的な手漕ぎボートに乗って、ブレッド島へ向かったの。
このボートは昔から地元の漕ぎ手たちによって守られていて、エンジンは使わず、木のオールだけで静かに湖を進むのよ。
船を漕いでいたのは、ミハエルさんという優しそうな青年。
「この湖にはね、昔から『沈んだ鐘』の伝説があるんだよ」
と彼が話してくれたの。
むかしむかし、この湖のそばにある城に、美しい貴婦人が住んでいたの。
彼女は愛する夫を亡くし、その悲しみを癒すために、湖の小さな島に鐘を贈ろうとしたの。
でも、その鐘を運ぶ途中、突然の嵐がやってきて、鐘を乗せた船は湖に沈んでしまったの。
貴婦人は悲しみに暮れ、やがて修道女となって遠くの修道院へ旅立ったんですって。
でもね、後にローマの教皇がこの話を聞き、特別に新しい鐘を贈ったのよ。
だから今でも、この島の教会では鐘を鳴らすと願いが叶うと言われているの。
そして、不思議なことに、夜になると湖の底から沈んだ鐘の音が聞こえることがあるんですって……。
ババも島に着いて、教会の鐘を鳴らしてみたのよ。
「あなたたちが元気に成長しますように!」
って願いを込めてね。
君たちのところに、その願いが届くといいわね。
その後、湖の周りを歩いていると、レストランを営むおばあさんに出会ったの。
名前はアナさん。
「ブレッドに来たなら、これを食べなきゃだめよ!」
と言って、おばあちゃんに「ブレッドクリームケーキ(クレムシュニタ)」を出してくれたの。
ふわふわのカスタードクリームとサクサクのパイ生地が層になっていて、甘すぎず、軽やかな味わい。
とっても美味しかったわ!
君たちにも食べさせてあげたいけれど、生のケーキは持ち帰れないから、レシピをもらってきたわよ。
帰ったら一緒に作りましょうね!
夜になって、湖畔のベンチで静かに水面を眺めていたの。
すると、遠くの方から、かすかに鐘の音が聞こえた気がした。
風のせいかもしれないし、本当に湖の底の鐘が鳴ったのかもしれない。
でもね、その音はなんだかとても優しくて、ずっと昔から湖が見守っているような気がしたのよ。
こうして、おばあちゃんのブレッドでの冒険は終わったわ。
でもこの街には、まだまだ知らない秘密がありそうね。
次の絵葉書も楽しみにしていてね!
愛をこめて、ババより
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