もし、また出逢えたなら。
吉高 都司 (ヨシダカ ツツジ)
『回らす想い』【回想:改題】
その子と出会った。その日の事は、いつからだ、と確定的な日は憶えていない。知らない間にその子は、いつの間にか、クラスメイトになっていて、知らない間に、いつも隣にいるようになった、特にかわいいというよりも愛嬌が可愛い、僕よりも背が高く癖のある歩き方で、少し猫背で、僕を見るときは、上目遣いで僕を見ている、その頃は、自分のその気持ち、それが何なのか答えが分からないでいた。
日直当番があった。その時は、夕方近く、教室に入った時、物憂げに席に座っていて、外を見ていた薄い暗い教室にその横顔は、何を考えていたか分からなかった、多分一生、分からないだろう。例えば、タイムマシンと言うものがあって、その時に何回戻ったとしても、その時に聞く勇気が無ければ、意味も無いと思う、そう、あの時の勇気が無ければ、宇宙開闢以来の時間があったとしてもそれは、無意味だと思った。
彼女が、ケガをした時があった。松葉づえをついていた時、松葉杖を取り難そうにしていたことが何回かあった、自然と体が動いて、手伝ったこともあった、それが自然な事だと、おもっていた。冷やかされはしたが、特に気にはしなかった。それよりも彼女の不自由さを慮ってのことだったと思う。
一度、勇気を出したときがあった。修学旅行の時期に重なっていて、彼女は、行く事は叶わなかった。ずっと旅行中もずっと気にはしていた。気にしていたが、それなりに楽しく思い出深いものには、成っていた。ただ、お土産を選んでいる時は、彼女の事が横切って、彼女のために思わずお土産を買った。缶詰みたいなものを買ったことを覚えている。我ながら、センスも何もあったものではない。帰ってきて、ちょうど雨の日に傘をさして、彼女の家を訪問したことを、客観的に一枚の絵の様に覚えている、彼女の母が応対してくれて、お土産を取り次いでくれた。傘に穿つ雨音が、その時に何を話したのか、お互いの声を雨音で記憶を満たしていたので、何を話したのか一切憶えていない。
手紙を貰った事があった。正確に言うと個人的にではなくクラスメイト全員から、私が、大病を患って入院していたから励ましの手紙を貰った。一枚ずつ封筒に入れて。その時は、嬉しかった、そして、 とても恥ずかしかった。貰う手紙の初めてであったからだ。自分でも内容は詳しく覚えていない、ただ、 その手紙の中に彼女の手紙があったことははっきりと覚えていた。
社会人になりたての時だった。卒業式から何年たっただろう、日々のルーティンワークからそろそろ、周りが見え始めた、初秋の青空を見上げた時。ふと、心の記憶の片隅の彼女が、ちらちら彼女の後姿がみえて、浮かぶ雲に言葉の葉を載せたい気分になった、実家から一人暮らしの為、引越しの時に、卒業アルバムや寄せ書きの類は、柄にもないと。すべて、実家に置いて、来たがあの時の手紙の束だけは、一緒に持ち出していた。
同窓会の知らせが来た。何年たっただろう、きっとあの子も来るだろうと、あの時、の入院した時の励ましの手紙をコピーしてみんなにサプライズだと言って渡そうと思った。みんなは懐かしさのあまり、また僕が、こんなにずっと持っていてくれていたなんて、自分が、こんな手紙を書いていたなんてとそのこと自体忘れていたとか、悲喜交々だった。当然彼女にも渡し、ありがとうと言った。そして、ありがとう。と、彼女は言った、正確に言うとそう聞こえたのかもしれない、もしかしたら、違う言葉を発していたのかもしれない、周りのざわめきが急に盛り上がり、気が付けば、親しい女友達に腕を引っ張られ、他のクラスの子たちの中に溶け込んでいった。今となっては、それを知る術は、何も持ち合わせていない、でも確かに、彼女の口は、その言語を発するのに必要な形をなしていた、もしかしたら、私の心がそうあって欲しいと思っているから、その願望がそう見せたのかもしれない。
諦めるとか、成就するとか、そんなことでは、言い切れない、表せない事だと思う。年月が、答え合わせの近似値を導き出したのだと思う。
いつか必ず会えると確信している。その時には必ず言おう。出逢えたことか、全てだと。
ただ、本当に好きだったと、同じ時間を過ごしたのだから。 了
もし、また出逢えたなら。 吉高 都司 (ヨシダカ ツツジ) @potentiometer
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