Level55C

幸せを手にすることは、それを失う痛みをいつか受けることと同義だ。今まで見た「幸せ」の片鱗は俺を糠喜びさせるのにちょうどいい。この真っ暗な世界でただひとつ光るテレビは俺の残念な好奇心を誘蛾灯のようにいとも簡単に惹きつける。「ソ…ノニュ…サイタ…」ノイズが激しくて何を伝えたいのかも分からない。この時離れていれば良かったんだ。

「皆さんこんばんは。ニュースLIEのお時間です。」その機械的な、生気の籠っていないキャスターの声により全身の細胞が恐怖の音を上げる。ただそれでも体は動かない。

「埼玉県██市███町にて3月4日午前3時両肺が裂けた25歳男性の変死体が発見されました。」嘘だ。そこに映ったのは兄だ。川本ひかる。意地悪くも俺の事を第一に考え、大切な時はいつも味方してくれた。兄だ。「そんなことあるはずがない…」その瞬間通知音がなる。[母:ひかるが息してない!]

まさか…どうせまた食い意地張って詰まらせただけだろう…そうだろう…?なあ…

「次のニュースです。東京都███区にてトラック轢き逃げ事件が発生し、22歳女性が死亡」…は?

「死亡したのは竹本ゆうさん22歳で、遺体は全身を強く打っていて、即死と考えられています。」そんなわけが無い!嘘をつくな!本当のことを言え!ゆうは何も悪くない!あの優しくて!一途で!誰からも愛されていたゆうが!そんなはずない!

着信音だ。電話をかけたのは共通の友人、なほだ。

「たける?大事なことを伝えないといけなくて…その…」全身の毛が逆立ち、肌が青ざめていく。

「………」

「ゆうが…トラックに轢かれて…死んじゃった…!もう体が冷たくて…何も反応しないの!たけるのこと探してもらうために色んな人に掛け合ってたら…トラックがこっちに…突っ込んできて…それでゆうは…私を庇って…」そんな…俺は喉が張り裂けるほどに叫んだ。

「嘘だ嘘だ!そんなことありえない!嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!」

「速報です。東京都███区にて無差別殺人事件が発生し、山内なほさん22歳などの多数の死者が出ています。」「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!嘘だ!」テレビが映す映像には見覚えのある血濡れたバッグが映っていた。

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Backrooms C rooms とある放浪者 @peruaeusuzaryuuseigun

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