世界が終わるまで付き合う予定だったけど終わらなかった君と僕

@Contract

第1話 エピローグ

目が覚めると今日も鬱陶しいくらいに爽やかで温かな日差しがカーテン越しに僕らを照らしている。


隣で吞気にすやすやと寝ている彼女を起こさないように静かにベットから降りてリビングへ向かいテレビの電源を点けた。


テレビにはお馴染みのニュースキャスターたちが、連日世間を騒がせていた迷惑なニュースについて苦笑いを浮かべながらどこか安全したような、それでいて気恥ずかしいような何とも言えない顔を浮かべている。


「いや、今回ばかりはもう終わりかと思ったんですがね。どうせ明日で人生終わりだと思ってお金使いすぎてちょきんないですよ」

「またまた~、植田さんなんて稼ぎすぎて使い切れてないでしょ」

「そんな稼いでないですよって、綾香ちゃんは昨日どうしてたの?」

「私は今まで我慢してた甘いのとかラーメンとか、いっぱい食べちゃいました。明日からダイエットです」


今から一週間前、それは突然ニュースで発表された。


地球に隕石が衝突する。確率は8割。


それに対しする僕らの反応はアメリカのコメディー映画さながらのなかなかな物だった。


あるものは自身の持つアカウントで自らの思いのたけを心行くまま垂れ流し、あるものはこれがチャンスと新たな宗教やら霊感グッズやらを売り始め、多くの人間がXデイに近づいてくるにつれて欲望のままに、思うがままに、願うがままに最後の日までを過ごした。


中には変わらぬ日常を送るものも多く、少し非日常的なことは起こりながらも公共のインフラは保たれておりスーパーやコンビニも不自由なく使えた。


まあ今になって思えばなかなか無い、面白い体験だったと思う。


ぼんやりとソファーに座ってテレビを眺めて見ていると徐々に足音が近づいてきて隣に座った。


「おはよう、文也くん昨日はよく眠れたかしら?」

「寝るつもりは無かったけどおかげで様でぐっすりだよ」

「それは良かったわ。コーヒーか何か飲む?」

「ああ、頼むよ」


彼女はソファーから立つと僕の前を横切ってキッチンに向かった。


「流石に目のやり場にこまるから服着てくれないかな?」

「今更じゃないかしら?それに最後まで出来ることはするのが私の長所なの」

「それはこの一週間でよく知ったよ。本当に」


僕がこれまで積みかさねてきた20年よりもこの一週間は生きていることを実感した。


「いやーにしても彼の言葉は何だか我々に刺さりましたな」

「青いってゆうか子供っぽいってゆうか。まあそれがいいんですけどね」


突然テレビにしなびた野菜みたいな人相の悪い、職務質問を毎秒受けていそうな妖怪のような男が映り思わずテレビを消して空を仰ぐ。


「あら人気者ね。いまなら世界が楽しくなるんじゃない?」

「僕はどこまで行っても日陰で生きる人間なんですよ。それは渚が一番知っているだろ」

「当たり前じゃない何年あなたのストーカーしてたと思うのよ」


コーヒーを入れ目の前のテーブルにインスタントのコーヒーを置く。


「ありがとう」


口の中をほろ苦い香りと味が満たしていくと同時に、幸せはここにあるのだと改めて実感する。


肩にドサッと彼女がもたれかかり、髪から甘い匂いが漂う。

ほのかに伝わる温かみが確かに生きていることを教えてくれる。


「それで私はこれからどうなちゃうのかしら?もう用済み?」

「そんなひどい人間じゃないよ」

「そうかしら、外に出たら今のあなたは色んな女の子に囲まれて両手に花よ?」

「信用ないなあ」


ストーカーと恋した一週間、僕は一度死んでもう一度生まれた。


「こう見えても私結構か弱いのよ。他の女の人と話せば心配になるし、電話してれば相手が気になるし、今だって貴方に捨てられた後のことを考えてるわ」


「心配させてごめん。いましっかり答えるよ」


彼女の肩を抱き寄せ答える。


「君がいない世界にはもう戻りたくない。地球が滅びるその日まで僕らはいつまでも一緒だよ」


「今日は最高の日ね」


彼女は涙で顔を濡らしながら笑みを浮かべて微笑んだ。

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