第46話 めっちゃヤバい状況なんじゃない?
「それにしたって、シオンも隣の坊ちゃんも魔法学校の制服なんか着て、こんな路地近くを
フジの指摘はもっともだ。きょろきょろと辺りを見回して歩くシオンとジンガは、この国に不慣れですと言い回っているようなものだ。
路地から現れたガラの悪そうな集団が、シオン達に近づいてくる。
ドン、と男に肩をぶつけられて、シオンがよろける。
「痛……っ! ちょっと、今わざとぶつかったでしょ!」
「あ? わざとぶつかってきたのは、そっちだよなぁ? お前らも見てただろ?」
ぶつかった男の他に、三、四人のガラの悪い男達がシオンを囲んでにやにやと下卑た笑みを浮かべる。
「…………はぁ。言ったこっちゃない」
いまだ、路地裏から様子を伺っているだけのフジが深いため息をつく。
「行こう。話が通じないな」
「あったり前、相手にするだけ無駄だもん」
明らかに絡むこと自体が目的だろう男達に蔑んだ視線を向けて、ジンガはシオンの手を取った。
「おいおいおい、彼女の前だからって格好つけてんのか? お坊ちゃん」
「……なんだと?」
「観光かなんだか知らねぇけど、
わはは、と下品な声で笑う男達は、魔法学園の制服を見てターゲットに選んだようだ。
この国はスラムや人目のない路地が多く、煌びやかな表側と比べて裏社会は治安が悪いと、授業で習ったことをシオンは思い出す。
「ふんっ、魔法が使えれば人数差なんて関係ないと君たちは先生から教わらなかったのかい? あぁ、君たちのような奴らは学校で教わったことなんてなかったか」
ふん、と鼻で笑って、明らかに見下した態度でジンガが挑発する。シオンが物思いにふけっている間にも、久しぶりにジンガの悪役感満載の台詞が炸裂していた。
「……っ、こいつ! 馬鹿にしてんのか……っ!」
「そうだと言ったらどうするんだい? 魔法を使えない凡人が僕たちに適うわけがないと思うけれど」
魔法学校の生徒だと分かっていながら、数人で囲んで来るなんて、どう考えても魔法も使えない考え無しの三下の行動だとジンガはタカをくくっていた。
もちろん、平民でも魔力が高いジェイドのような例外もいるが、スラムにいるようなチンピラは魔法を使えない。万が一、魔法が使えたとしても威力は低い。魔法を使う媒体となる魔法鉱石を買うお金がないからだ。
「この、ガキ……ッ! 魔法学園の生徒様だかなんだか知らねぇが、お高くとまって……俺らを見下しやがって! おいっ! 計画変更だ! こいつら監禁して身代金を要求するだけじゃ気がすまねぇ! 少しくらい怪我しててもいいよなぁ……っ!」
男の怒鳴り声に周りの男たちも同調する。
「ジンガ、やっちゃえる?」
「こんな奴ら、僕だけでも秒で終わるさ。手早く済ませよう」
ジンガが魔力を手のひらに集めて、水球を創り出そうとした瞬間のことだ。
ビリ……ッ!
「ジンガ……ッ!? 痛ッ……く、ぅ……っ!」
「……な……っ! 魔法を使える奴が……いた、のか……っ」
身体に電気が走り、二人は地面に突っ伏した。
「あー、違う違う。品行方正なお坊ちゃんは知らなかったかもしれねぇけど、俺らみたいな魔力が少なくて魔法が使えねぇ奴でも強力な魔法が使えちゃう魔導具ってのがあんのよ」
「違法魔導具、か……」
「そ。ここはそういう国だからねぇ。薬と引き換えに非合法な魔導具を売ってる奴もいれば、表で見ない魔導具だからこそ威力は強力だったりするってわけ♪ 彼女にいいとこ見せれなくて残念だったなぁ、坊ちゃん」
「……っ! シオ、ン…………ッ!」
男はシオンの長い黒髪を掴んで、気絶しているシオンをジンガの目の前に転がした。
「んじゃ、坊ちゃんも仲良くねんねしてな♪」
そう言って男が魔導具を使うと、バチバチと稲妻が走り、ジンガも意識を失った。
◇ ◇ ◇
「……ジンガ、……ジンガってば……っ」
ひそひそと呼びかけるシオンの声でジンガが目を覚ます。二人は薄暗い倉庫の床に手を縛られて転がされていた。
「……悪かった、僕が余計なことを言ってアイツらを怒らせたから……」
「今はそんなことどうでもいいよ! それより、アイツらが戻ってくる前に早く逃げなくちゃ!」
小さな窓から見える空が、夕日で赤く染っている。
「……君の強化魔法で縄をちぎれないのか?」
「私もやろうと思ってるんだけど、全然魔法が使えなくって……」
「まさか……っ」
手元を縛っている縄には、見たことのない魔導具がくっついている。恐らく、これのせいで魔法が使えないのだろう。
「ねぇ、これ……めっちゃヤバい状況なんじゃない……?」
嫌な汗が流れる。魔法を使えない二人は、ただの非力な学生だ。急な心細さに、シオンから余裕の笑みが消える。
「それで、生意気な坊ちゃんの素性は分かったのか?」
「あぁ、情報屋様々だな。まさかのお貴族様だぜ!? 今までの身代金なんかちっぽけに感じるくらいの大物だ!」
「やりぃ! で、女の方は?」
「女の素性は分からねぇとよ。まぁ、ろくな情報がねぇってことはどうせ平民だろ。……けど、魔法も使えて見た目も悪くねぇとくりゃ、遊郭でも変態のとこでも高く売れる。傷つけるんじゃねぇぞ」
「傷がつかなきゃ、味見はしてもいいってことだよなぁ?」
戻ってくる男達の会話に、シオンは身震いをする。
「程々にしろよ。俺はあの坊ちゃんに相手して貰おうかな」
「変態かよ」
「ちげーよ。アイツには散々コケにされたからな。引き渡す時に生きてりゃいいんだ、逃げられないように足の一本や二本折ったって構わねぇだろ?」
「ははっ、違いねぇ」
倉庫の外から聞こえてくる会話の内容に、シオンが青ざめていく。そして、震える手を握りしめて覚悟を決めると、ジンガに向かって微笑んだ。
「……ジンガ。アイツらが入ってきたら、私が体当たりするから走って逃げて」
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