婚約破棄? よろしい、デュエルで決着をつけましょう。
羽羽樹 壱理
婚約破棄? よろしい、デュエルで決着をつけましょう。
煌びやかな大広間に集った宮廷人たちの前で、王子ルーカス・フォン・ロイヤルは厳粛な面持ちで立ち上がった。
その声は荘厳に鳴り響き、誰もが耳を傾ける中、彼はこう宣言したのだった。
「かつて私は、
その宣告は、まるで古の詩のごとく、宮廷に深い静寂と衝撃をもたらし、以降の運命を大きく揺るがすこととなる。
宣告を突き付けれられた令嬢セレナは、優雅な微笑みと共に一歩前に出ると、熱く、鋭い口調で応じた。
「婚約破棄? よろしい――ならばデュエルで決着をつけましょう!」
一瞬の静寂――……。
そして――宮廷人たちから歓声が上がり、対決を告げられたルーカスがたたらを踏む中、デュエルの特設ステージが二人を分け隔てる間に地下よりせり上がって、その荘厳な姿を現した。
「王子殿、私が証明するのは、ただの
――このように言われて、逃げの無様を晒せるルーカスではない。
歯を食い縛り、懐から彼の魂の移し身である『デッキ』を取り出し、腕に装着したデュエルディスクへ、叩き付けるようにセットした。
セレナもまた、懐から
「――いいだろう。我が情念の抗うこと叶わぬ
大理石の荘厳な柱に囲まれた、伝統と革新が融合した空間――王宮の中央に現れた特設デュエルアリーナに二人が進み出ると、イソノリオスが声を張り上げた。
「デュエル開始ーーーーーッ!!」
運命が幕を開けた。
「俺の先行! 俺は手札から【青き眼の賢士】を通常召喚しよう!!」
【
宮廷人たちは湧き上がった。
「【青き眼の賢士】の効果――デッキに存在する光属性のレベルが1であるチューナーモンスターをサーチして手札に加える。サーチするは、当然、【白き乙女】――その効果発動! 手札、デッキ、墓地から、最強のカード【真の光】をフィールドに展開できるッ! そして……【真の光】を発動する、同名カードがフィールド・墓地に存在しない【青眼の白龍】の
デュエルスタジアムがどよめく。
「そのまま効果発動。このモンスターはリンク召喚成功時に、デッキから【光の霊堂】を――」
「手札から
セレナの鋭い声が、ルーカスの流暢な語りを遮った。
「【
「くっ……! 小癪な――……」
小声で毒づき顔を僅かに歪めて、しかし、ルーカスは思案する。
「……フム、しかし、また――それも良し。私は伏せ札を1枚セットして、ターンエンドだ」
宣言して、ルーカスは大手を広げて、ルーカスを見据えるセレナへと、張り上げた声で語り出した。
「オオ、セレナ、どうか分かってくれ! 今ここに、我が心は既に別の高貴なる女性に奪われ、燃え上がる青眼の龍の如き威光と熱情に魅了されている。君がどのような
「ルーカス様、あなたは分かっていないようですね。私は婚約破棄を止めたいのではない」
「なに!?」
「そう、私が望む答えは――きっと
そして、セレナは、始まりを声にした。
「私のターン、ドロー!」
そうして、引いた運命を見てニヤリと笑い、セレナはそのカードを表にした。
「【トレジャー・パンダー】を、通常召喚!」
――――デュエルスタジアムが、審判であるイソノリオスまでもが表情を無くし、静まり返った……。
「――――オッ、おまっ、お前……ッ!?」
エクゾディア……。
小さく囁かれる中、ルーカスが
「こんな場に――……そんなっ、そんな
「手札から【成金ゴブリン】を発動、自分はデッキから1枚ドローし、相手は1000ライフポイントを回復する。――――そして【トレジャー・パンダー】の効果を発動! 自分の墓地から魔法・罠カードを上限3枚まで裏側表示で除外することができる、そして除外したカードの数と同じレベルの、通常モンスター1体をデッキから特殊召喚する。選ぶのは当然――エクゾディアの封印パーツ!」
「ハ、ハ、ハ――ハハハハハ! しかし、フフフ、ここで、
「魔法カード、【抹殺の指名者】! 自分のデッキからカードを1枚除外し、その同名カードをターン終了時まで無効にする。選ぶのは当然、【
「【
「さらに【馬の骨の対価】を発動、効果モンスター以外の自分フィールドの表側表示モンスター1体を
「【灰流うらら】、【灰流うらら】ッ!」
「ルーカス様、確かに【灰流うらら】は手札から発動できる、最も優秀なドロー行為の妨害が可能なカードですが、それは1ターンに一度きりです。さて、次は【打ち出の小槌】です、任意の枚数手札を山札に戻しまして、その枚数だけドローする。……おっと、また【成金ゴブリン】が出ましたか。でもまずは【トレジャー・パンダー】の効果を発動しましょう」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛。【エフェクト・ヴェーラー】捨てちゃったよぉぉぉおおおおお゛お゛お゛」
【ワンダー・ワンド】――魔法使い族モンスターを
【チキンレース】――フィールド魔法であり、お互いのプレイヤーは自分のターン中、1000ライフポイントを払ってデッキから1枚、カードをドローできる。
【
そして、【封印されしエクゾディア】と、【右足】【左足】【右腕】【左腕】、封印のパーツたるモンスターカード。
その効果、【封印されしエクゾディア】と封印パーツが手札に揃ったその瞬間、その者は、勝利となる――。
その後は、ルーカスなどいてもいなくても同じ展開であった。
ただ、彼の羞恥の姿だけが、衆目に晒されている。
「こんなの、
ルーカスの憐れな姿に、そのなれ果ての姿を目元捻じ曲げて見つめながら、誰かが呟いた。
セレナのデュエルディスクに収められた
「――――さて。私は、【闇の量産工場】を手札より発動いたします。自分の
そうして。
セレナは、自身の手札を――――破壊神の神秘的な【右足】、恐ろしい【左足】、破滅を予感させる【右腕】、無双を疑えない【左腕】、そして胴体と……その
「私の勝ちにございます」
――爆発のような歓声が、宮廷内で上がった。
途切れぬ喝采の中、イソノリオスの声が轟いた。
「セレナ・フォン・ベルヴェデーレ様の、勝利ィーーー!」
セレナは膝から崩れ落ちるルーカスへ指を突き付け、宣告した。
「罰ゲームッ! これより、ルーカス王子は永遠に『屈辱の王子』として、毎月開催される宮廷デュエル大会において、その恥ずかしき王子服を着用しなければならぬッッ!」
「は、恥ずかしき王子服とは……? ――ま、まさか……!」
「腕にシルバー巻いたタンクトップ姿でございます」
「――頼むッ! セレナッ、それだけは……!!」
頭を下げるルーカスから、セレナは視線を切って、告げた。
「さようなら、ルーカス様。あなたに愛されたもう一人の私は、もう過去です。私のことを再び呼ぶことがあるのから、セレナ・フォン・アルマスとお呼びくださいませ。それでは
今度こそ泡吹いて倒れたルーカスを背に、セレナがその場を後にすると、未だ止まらない歓声を上げながら宮廷人たちもまた、一人の
こうして、セレナは勝利を収め、運命を決する
「――――ルーカス様、ライフポイントはまだ残っております。もう一度最初から、やり直しましょうぞ」
すっかりと、静まり返った中で。
ガクリと顔を俯けたルーカスへ声をかけ、そっと肩を叩くイソノリオスの姿が、宮廷にあったという――。
◇
後日談。
あの
今は、少しだけ、ただ一人の
次はどんな
セレナは微笑みを浮かべて、お茶を楽しみながら、その手元に置かれた、輝くカードを見つめたのだった。
婚約破棄? よろしい、デュエルで決着をつけましょう。 羽羽樹 壱理 @itiri-yuiami
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