愛の表現

舟津 湊

第1話

噛まれた首筋の痛みよりも、

そこに流れた涙の熱さが体に沁みた。


「トツゼン、ゴメンナサイ。」

人間ならざる声がそう詫びた。


でも、彼女も一時間前までは、人間だったのだ。

この一年で、世界人口の九割が、人ならざる者に変わったとの推計が出ている。

ここまでくれば、いかに人間のままでいられるか、よりも、誰に噛まれて人間でなくなるか、が残された残された人類の課題となった。


僕と彼女は、話し合い、先に人間でなくなった方が、噛みついて添い遂げようね。

ということになった。


不運にも彼女が先に人ならざる者になってしまったが、彼女に噛みつかれた瞬間、彼女の深い愛を受けとることができた。


本望だ。

ただし、人ならざる者になった今、僕には、ミッションが課されていることに初めて気がついた。

誰かに噛みつけ、と。


僕の愛はすべて彼女に向けられている。

噛みつく対象はいない。


・・・いや、待て。


このお話を読んでくれる、いとおしい人が目の前にいるではないか。


愛をこめて。

トツゼンゴメンナサイ。


ガブリ。


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愛の表現 舟津 湊 @minatofunazu

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