If~パロディで始まる文学小説~

ボーンファイヤー

If:1 パロれ!学園メロス!!

1話 減らされる授業数。変更される授業。

 メロスは激怒した。必ずかの理不尽極まりない校長の意のままになってはならぬと決意した。メロスには時間割が分からぬ。メロスは町の学生である。リコーダーを吹き友達と遊んで暮らして来た。けれども授業変更に対しては人一倍敏感であった。きょう早朝メロスは家を出発し交差点を越え歩道橋を越え、このシラクスの高校にやって来た。メロスには父も母もの内気な十四歳の妹も友達もいる。しかし、彼女は居ない。

 メロスは学校の校門前の大路をぶらぶら歩いた。メロスには竹馬の友があった。セリヌンティウスである。今は此のシラクスの学校に転校してきている。これからその友と下駄箱で待ち合わせするつもりなのだ。先週の金曜日はメロスが体調を崩して休んでしまい、そのまま土日の間にも会わなかったのだから、会うのが楽しみである。しかし歩いていくうちにメロスは、周りの生徒の様子を怪しく思った。ひっそりしている。今日は月曜日で、連休明けでつらいのは当たり前だが、けれども、なんだか、月曜日のせいばかりでは無く、生徒全体がやけに気だるそう。のんきなメロスも、だんだん不安になって来た。路で会った自分の後輩をつかまえて、何があったのか、先週の月曜日の朝は少なくともここまで暗くはなかったけど、と質問した。

 メロスの後輩は無視して答えなかった。しばらく歩いて別の後輩に会い今度はもっと語勢を強くして質問した。後輩は無視していた。メロスは両手で後輩の胸ぐらをつかんで質問を重ねた。後輩はあたりをはばかる低声で、わずか答えた。

「校長は、授業を変えます。」

「なぜ変えるのだ。」

「体育で長距離をやる、と言うのですが、誰にもそんな、競技をやりたがるものはおりませぬ。」

「たくさんの授業をかえたのか。」

「はい、はじめは一時間目の数学を。それから、二時間目の美術を。それから、社会を。それから、英語を。それから国語を。それから、理科を。」

「驚いた。音楽は無事か?」

「いいえ、無事ではございませぬ。体育以外いらない、と言うのです。この頃は、家庭科の有用性も、お疑いになり、実用性のない教科には、授業数を一時間ずつ差し出すことを命じて居ります。御命令を拒めば学校会議にかけられて、授業数をゼロにさせられます。先週の金曜日は、六教科無くなりました。」

聞いて、メロスは激怒した。「呆れた校長だ。生かして置けぬ。」

 メロスは、単純な男であった。学校のカバンを背負ったままで、のそのそ校長室にはいって行った。たちまち彼は、教師に捕縛された。調べられて、メロスの懐中からはリコーダーが出てきたので、騒ぎが大きくなってしまった。メロスは王の前に引き出された。

「このリコーダーで何をするつもりであったか。言え!」校長ディオニスは静かに、けれども威厳を持って問い詰めた。その王の顔は血色がよく、服の隙間から見えた腹筋は、刻み込まれたように深かった。

「学校を暴君の手から救うのだ。」とメロスは悪びれずに答えた。

「お前がか?」校長は、憫笑びんしょうした。「仕方のない奴じゃ。お前には、わしの健康の秘訣がわからぬ。」

「言うな!」とメロスは、いきなり立って反駁した。「生徒の授業可能性を奪うのは、最も恥ずべき悪徳だ。校長は、各授業の持つ有用性さえ疑って居られる。」

「疑うのが、正当な心構えなのだと、わしに教えてくれたのはお前たちだ。授業の効果は、あてにならない。授業は、もともと天才の遊びさ。信じては、ならぬ。」暴君は落ち着いて呟き、ほっと溜息をついた。「わしだって、九教科を望んでいるのだが。」

「なんの為の九教科だ。お前は全て体育に変えたじゃないか。」今度はメロスが嘲笑した。「有用性のある授業をたくさんなくして、何が九教科だ。」

「黙れ、スクールカースト下位の者。」校長は、さっと顔を上げて報いた。「口では、どんな清らかな事でも言える。わしには、人の腹綿の奥底が見え透いてならぬ。お前だって、いまに、道徳オアシスの授業数がゼロになってから、泣いて詫びたって聞かぬぞ。」

「ああ、校長は悧巧りこうだ。自惚れているがよい。私は、ちゃんとゼロにされる覚悟で居るのに。命乞いなど決してしない。ただ、——」と言いかけて、メロスは足元に視線を落とし瞬時にためらい、「ただ、私に情をかけたいつもりなら、授業数を減らすまでに一時間時間を与えてください。今日の変更された授業の道具を家からとって来たいのです。一時間のうちに、私は家で準備を終わらせ、必ず、ここへ帰ってきます。」

「ばかな。」と校長は、しわがれた声で低く笑った。「とんでもない嘘を言うわい。逃がした小鳥が帰って来るというのか。」

「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。

「私は約束を守ります。私を一時間だけ許してください。今ならまだ朝礼まで一時間あるのだ。そんなに私を信じれないならば、よろしい、私のクラスにセリヌンティウスという美術部員がいます。私の幼馴染だ。あれを、人質としてここに置いていこう。私が逃げてしまって、一時間後の朝礼までに、ここに帰って来なかったら、あの友人の責任にしてください。たのむ、そうして下さい。」

 それを聞いて校長は、残虐な気持ちで。そっとほくそ笑んだ。生意気なことを言うわい。どうせ帰って来ないに決まっている。この嘘つきに騙されたふりをして、放してやるのも面白い。そうして身代わりの男が、一時間後に責任転換されるのも気味が良い。授業はこれだから信じられぬと、わしは悲しい顔をして、その道徳の授業数をゼロにしてやるのだ。世の中の、受験生とかいう奴輩にうんと見せつけてやりたいものさ。

「願いを、聞いた。その身代わりは放送で呼んでおいてやる。一時間を過ぎるまでに帰ってこい。遅れたら道徳の授業数が消えたのを、身代わりのせいにするぞ。ちょっと遅れて来るがよい。お前の罪は永遠に許してやろうぞ。」

「なに!?何をおっしゃる。」

「はは。スクールカーストが大事だったら、遅れて来い。お前の心は分かっているぞ。」

 メロスは口惜しく、地団駄踏んだ。ものも言いたくなった。

 竹馬の友、セリヌンティウスは、放送で校長室に召された。校長ディオニスの面前で、良き友と良き友は、三日ぶりに会った。メロスは、友に一切の事情を語った。セリヌンティウスは無言でうなずき、メロスをひしと抱きしめた。幼馴染の間はそれでよかった。セリヌンティウスは生徒指導室に運ばれた。メロスはすぐに出発した。16歳、真夏の大冒険である。

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