第8話 呪われた村

(レオ視点)


朝霧が立ち込める森を、レオは慎重に進んでいた。


昨夜、魔物を倒し「獣化の魔法」を手に入れてから、彼の胸には高揚感が宿っていた。


「……ワイルドハウル、か。」


本に登録された新たな呪文。


「獣化」という言葉に胸が躍る反面、その力がどのようなものかまだ未知数だ。


「ま、いざという時に使ってみればいいか。」


レオは小さく笑い、歩を進める。


すると、森の奥にぽつりと見えたのは──


一つの村だった。


しかし、何かがおかしい。


レオは足を止め、眉をひそめた。


「……静かすぎる。」


村は深い霧に包まれ、家々の窓は閉ざされている。人の気配が全くない。


「誰か……いますか?」


声をかけても、返事はない。


レオはそっと村の中へ足を踏み入れた。


軋む木の橋を渡り、静まり返った通りを歩く。


「……これ、やばいんじゃないか?」


霧の中、建物の壁には黒い染みのようなものが広がっていた。


そして、道端に転がる石像──いや、かつては人だったのだろう。


「まさか、これ……呪いか?」


レオは冷たい汗を感じた。


村全体に漂う、異様な空気。


ただの静寂ではない。まるで、生気そのものが吸い取られたかのような、死の香りが漂っている。


「……誰が、こんなことを……」


その時、かすかに何かの音がした。


カサ……カサ……


「……誰かいるのか?」


レオは声を潜め、音のする方へと歩み寄る。


小さな家の裏手、崩れかけた木箱の影から、何かが覗いていた。


「……!」


怯えた目をした、一人の少女だった。


ボロボロの服に身を包み、彼女は震えている。


「だ、大丈夫か?」


レオが手を差し伸べると、少女はさらに身を縮めた。


「こ、こないで……呪われる……!」


「呪い……?」


レオはハッとした。


「この村、呪いにかけられたのか?」


少女は小さくうなずいた。


「黒い霧が……村を包んで……みんな……石に……」


彼女の声は震えている。


「お兄ちゃんも……村長さんも……みんな……」


レオはぎゅっと拳を握りしめた。


「安心して、俺が何とかする。」


少女は驚いたように見上げる。


「で、でも……呪いを解くなんて……」


「俺には、この本がある。」


レオは白紙の本を見せる。


「何か手がかりがあるかもしれない。」


彼はページをめくり、周囲を見渡した。


すると、黒い染みのついた壁の近くで、何かが光った。


「……これは?」


レオは慎重に近づき、指先で触れる。


──すると、染みが蠢くように動き、ページに黒い文字が浮かび上がった。


『呪い解除の魔法──《パージ・シャイン》、登録完了。』


「……よし!」


彼は立ち上がり、少女に優しく微笑んだ。


「これで、呪いを解くことができるかもしれない。」


少女の目に、希望の光が戻る。


「ほんとうに……?」


「俺に任せて。」


レオは呪文を心の中で唱え、手に光を宿した。


村全体を覆う黒い霧、その根源を断ち切るため、彼は立ち上がった。


呪われた村を救うために──。

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