第5話

 炭火をさらに焚き、炉の温度を上げていく。鉱石を細かく砕いたものを炉に投入し、じっくりと熱していった。

 (もし銅が含まれているなら、鉄よりも低い温度で溶け出すはずだ)

 しばらくすると、鉱石の一部がゆっくりと変色し始めた。高温にさらされたことで、表面が黒ずみ、ところどころに赤みがかった光沢が浮かび上がる。

 (やはり銅が含まれている可能性がある……)

 さらに温度を上げると、一部の鉱石がじんわりと溶け出した。

 これは銅の特徴だ。鉄はこの程度の温度では溶けない。

 (ということは、この鉱石は鉄と銅の混合鉱石……もしかすると自然に生成された鉄銅合金の原料かもしれない)

 この発見は大きい。鉄は武具や工具に、銅は加工のしやすさから様々な用途に使える。さらに、銅とスズを混ぜれば青銅が作れるため、より精密な道具を作ることも可能になる。

 (まずは銅と鉄を分けて精錬する方法を考えるべきだな……)

 採取した鉱石の種類ごとに分け、試験的にいくつかの精錬方法を試していくことにした。

鉄と銅、それぞれの特性を活かせる道を探ることで、この世界での生存がより確実なものになっていくだろう。

 まずは銅の抽出を試みることにした。

 鉄よりも低温で溶ける特性を活かし、炉の温度を慎重に調整する。

 採取した鉱石を細かく砕き、炭火の中に投入する。

 しばらくすると、赤茶色の鉱石の一部がじんわりと溶け出し、炉の底に小さな金属の塊となって現れた。


 (やはり銅を含んでいたか……このままでは不純物が多いが、ある程度は利用できそうだ)

 取り出した銅の塊は不純物が混じっているものの、叩けば薄く伸ばせそうだった。

 これを利用すれば、簡易的な金属板や針金のようなものを作れるかもしれない。

 次に鉄の精錬だが、こちらは高温が必要になる。現在の炉の構造では温度が足りない可能性があるため、より効率的な燃焼を行う方法を模索する必要がある。

 (竹炭を作って、それを燃料にすれば温度を上げられるかもしれない)

 竹炭は高温燃焼しやすく、火力の安定性もある。

 この方法を試すため、竹を集めて炭化させる準備を始めた。

 さらに、銅を利用して何か作れるものがないか考えた。

 精錬した銅は柔らかいため、装飾品や道具の細工に向いている。最初に試すのは、細い銅線を作ることだ。これは針金や簡易的なフック、さらには編み物に活かせる可能性がある。

 (銅線が作れれば、細工の幅が広がる。さらに、青銅にすることができれば、より丈夫な道具が作れる)

 スズ鉱石が見つかれば、青銅の精錬も視野に入れるべきだろう。

まずは鉄と銅、それぞれの加工方法を確立し、使える資源を増やしていくことが重要だった。

 拠点の周辺にはまだ未探索のエリアが多い。

さらなる鉱石を探しに行くか、それとも竹炭作りを優先するか――次の行動を慎重に考える必要があった。


 まずは竹炭の製造を優先することにした。

 炉の温度を上げるためには、より高温で燃焼しやすい燃料が必要だからだ。

 拠点の近くで適度な太さの竹を集め、乾燥させた後、土を掘って簡易的な炭焼き窯を作る。

竹を詰め込み、空気の流れを調整しながら火をつけた。しばらくすると、竹から白い煙が立ち上る。

 (このままじっくり炭化させていけば、しっかりとした竹炭ができるはずだ)

 竹炭が完成するまでの間に、次の探索を進めることにした。

 今回は鉱石ではなく、植物を中心に調査する。以前見つけた綿毛草やもふ草のように、役立つ素材があるかもしれない。

 しばらく歩いていると、地面に広がる蔓植物を発見した。

 触ってみると、繊維がしっかりしており、強度がありそうだ。

 (これは……ロープの材料に使えるか?)

 試しに一本引き抜き、両手で捻ってみると、丈夫な縄のようになった。

 さらに、細かく裂けば布の織物にも応用できそうだった。

 (ゴム草の弾力性と、この蔓の強度を組み合わせれば、より頑丈な繊維素材が作れるかもしれない)

 いくつかの蔓を採取し、拠点へ戻ることにした。

 戻ると、竹炭の焼成がほぼ完了していた。窯の中の竹は炭化し、黒く硬い炭へと変わっている。

 (これで炉の火力を上げられる……いよいよ鉄鉱石の精錬にも挑戦できるな)

 竹炭を取り出し、次の段階へと進む準備を始めた。

鉄鉱石の精錬、そして新たに発見した蔓の活用――やるべきことはまだまだ多い。


 まずは作っておいた木製のまな板を拠点の調理スペースに置き、採ってきた魚を並べる。

 今日の獲物は、川で捕まえた鱒と鮭に似た魚だ。川魚特有のぬめりがあるため、まずは綺麗な水でよく洗う。

 (ここまでくると、やはり塩が欲しいな……)

 塩があれば魚の下処理も楽になり、保存もしやすくなる。

 だが、今は無いものを嘆いても仕方がない。

 石で研いだナイフを手に取り、魚の頭を落とす。

 続いて腹を割き、内臓を取り出した。新鮮な魚なので、匂いはほとんどない。

 (内臓は餌や肥料に使えるな)

 今回は、魚を二通りに調理することにした。

 一つは刺身。もう一つは焼き魚だ。

 刺身用には、脂の乗った身を薄く切り分ける。川魚なので寄生虫の心配があるが、冷水にさらし、できるだけリスクを抑える。

 焼き魚用には、串を作って魚を刺し、火のそばに立ててじっくり炙る。

 (この方法なら余計な脂が落ちて、香ばしく焼き上がるはずだ)

 火にかけると、皮がパチパチと弾ける音がし、香ばしい匂いが漂い始めた。

 (やはり焼き魚は食欲をそそるな……)

 焼き上がるまでの間に、採取しておいた奇妙な草を口に含んでみる。

 甘みがあるため、調味料としても使えそうだった。

 しばらくすると、焼き魚がちょうど良い色に焼き上がった。

 竹で作った箸を手に取り、まずは刺身から口に運ぶ。

 (……これはなかなか悪くない)

 シンプルな味だが、噛むごとに魚の旨味が広がる。

 次に焼き魚をかじると、香ばしさと凝縮された味が口の中に広がった。

 (これに塩や薬味があれば、さらに美味しくなりそうだ)

 満足できる食事を終えたことで、次は塩の確保を目標にしようと考えた。


 食事を終え、少し休憩した後、沼地付近の土質を確認することにした。

 湿った泥の中に、一部さらさらとした乾燥した土が混ざっている場所があった。

 普通の土とは違い、粒子が非常に細かい。

 (この土、何かが違う……)

 手ですくい取り、指の間で擦ると、さらさらとしていて滑らかだった。さらに興味を持ち、その粒子をほんの少し舌先に乗せてみる。

 (……しょっぱい?)

 はっきりとした塩気が広がった。

 (これは、もしかして塩分を含んだ土か?)

 もしそうなら、この土を上手く処理すれば塩を取り出せるかもしれない。

 海の近くではないが、かつてここが塩湖だった可能性もある。

 早速、採取した土を竹の器に入れ、拠点へ持ち帰ることにした。

 試しに濾過や煮詰めることで、どれほどの塩が取れるのかを確認する必要がある。

 (上手くいけば、料理の味付けが格段に良くなるな……)

 塩は保存食作りにも役立つ。

これが本当に使える資源なら、今後の生活が大きく変わるかもしれない。

 拠点に戻ると、早速簡易濾過を試してみることにした。

 昔、学校で習った方法を思い出しながら、手元にある材料を確認する。

 竹の器、繊維草、細かい砂、小石……これらを組み合わせれば、簡易濾過装置が作れそうだ。

 まず、竹を切って片側を封じ、筒状の容器を作る。その中に層を作るように、小石、砂、繊維草を順番に詰めていく。

 (これで土の不純物を取り除くことができるはず……)

 次に、塩気のある土を水に溶かし、それをゆっくりと濾過装置に注いでみた。

 水は小石や砂の層を通り、ゆっくりと滴り落ちてくる。

 滴った水を竹の器で受け取り、一口舐めてみる。

 (まだ少し濁っているが、確かにしょっぱさが残っている……!)

 この水をさらに煮詰めれば、塩が結晶化するかもしれない。

 (塩の抽出が成功すれば、保存食作りに大きく貢献できるな……)

 期待を込めつつ、次の工程に移ることにした。


 もう一度、簡易濾過を試してみることにした。

 先ほどの濾過装置は悪くなかったが、水にまだわずかな濁りがあった。

 もう少し精度を上げるため、繊維草の層を増やし、より目の細かい砂を探して追加することにした。

 (できる限り不純物を取り除いて、塩だけを抽出したい……)

 塩気のある土を水に溶かし、慎重に濾過装置へ注ぐ。

 今回は流れが遅くなったが、その分、不純物がより取り除かれているはずだ。

 竹の器に落ちてきた水を見つめる。

 さっきよりも澄んでいる。試しに舐めると、やはりしょっぱい。

 (これなら、さらに煮詰めることで塩を取り出せるかもしれない)

 早速、拠点に戻り、竹で作った器に濾過水を入れ、火にかけて煮詰めることにした。

 (塩ができれば、食事の味付けだけでなく、保存食作りにも役立つ。うまくいけば、生活の質がぐっと上がるな……)

 期待しながら、じっくりと水が蒸発していくのを待った。


 火にかけた竹の器の中で、水が徐々に蒸発していく。

 湯気が立ち、底にわずかに白い結晶のようなものが現れ始めた。慎重に火加減を調整しながら、さらに煮詰めていく。

 (これは……やっぱり塩だな)

 完全に水分が飛んだ後、底に残ったのは細かな塩の結晶だった。

 指でつまんで舐めると、しっかりと塩辛い。

 (これで食事の味付けができるし、保存食作りにも応用できるな)

 思ったよりも量は少ないが、試しにもう一度濾過して同じ作業を繰り返せば、ある程度の量は確保できそうだ。

 (継続的に採取できるなら、いずれは塩田のようなものも作れるかもしれない)

 そう考えながら、さらに水を濾過し、火にかける作業を繰り返す。

 少しずつではあるが、確実に生活の基盤が整いつつあることを実感しながら、塩の結晶を竹の容器に集めていった。

 天井を見上げる。

 竹やゴム草、繊維草を使って組んだ簡易な屋根。

 雨風は防げるが、まだ完全に安心できるわけではない。

 それでも、今日一日でできることはやり尽くした。

 拠点を作り、食料を確保し、水や塩の入手にも目処がついた。

 (生き延びるための最低限の基盤は整った……)

 そんな思いを抱きながら、体を横たえる。竹を組んで作った簡易な寝床は、決して快適とは言えないが、地面に直接寝るよりははるかにマシだった。

 夜の静寂の中、遠くで水の流れる音や風に揺れる草のざわめきが聞こえる。

時折、小さな虫や動物の気配も感じるが、今はただ目を閉じて休息を取ることを優先する。

 深呼吸し、目を閉じる。今日の疲れがどっと押し寄せるように、意識はゆっくりと深い眠りへと落ちていった。




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異界沼地サバイバル~孤独な俺は発火石と生き抜く~ みなと劉 @minatoryu

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