マシンガン
からから
マシンガン
昔から俺は人と話すことが好きだった。両親も祖父母も皆おしゃべりだったせいだと思うし、頻繁に家に親戚が出入りしていたせいもあったと思う。
とにかく俺にとって誰かと話すことは呼吸と同じレベルで普通のことで楽しいことだったのだ。
だから黙っている人を見つけるとじっとしていられない。俺にとって黙っている=楽しくないという等式が成り立ってしまっているせいだ。今の俺なら会話が得意じゃない人もいることを知っているが、小学生の頃の俺はそんなこと、知ったことじゃなかった。
「なあ! 暇なら俺と話そ!」
「……え?」
「昨日の夕飯がカレーだったんだけどさあ、俺の皿だけ肉が少なかったんだぜ!? どう思う? ひどくね!?」
「え、え……?」
そんな、初対面の相手から言われても反応に困ることを俺は教室の隅で本を読んでいた桜に一方的に話しかけていたのだ。うん、今思い出してもあの時の桜は困っていたと思う。というかしばらく経って普通に会話が出来るようになってきた頃に言われた。本を読みたかったのに突然話しかけられて当時は正直邪魔だったって。
その時の俺は笑って「またまた~」なんて言って流したが、内心それはもう冷や汗をかいていた。だってこの時はもう高校生で桜のことを好きだったのだから。好きな相手にそんなことを言われたら誰だって焦るだろう。焦ると言ってほしい。
桜は人と話すことよりも本を読んだり勉強をしている方が好きな人間だ。そんな桜が俺が話しかけたときだけ本に栞を挟んで体をちゃんと俺の方に向けて話をしてくれるのが好きなのだ。俺が散々話しかけたせいだけど、俺だけ許されている感じがして優越感があった。
その優越感がいつから恋心に変わったのかは正直覚えていない。ただ、桜と目が合う度に心臓がうるさくなったことだけは覚えている。このせいでいつもより脈絡がないことをベラベラと話して桜から「熱でもある?」と心配されたことだって記憶にある。
そう、桜と出会って好きになってから俺はおかしくなった。それまでは誰と話したって楽しかったのに、一番楽しい相手が桜になった。俺はテンポ良く会話を返してくれる相手が好きだったはずなのに、基本相槌ばかりでたまに鋭いことを言ってくれる桜との会話が好きになった。
だから、うん。ずっと話していたい相手が桜になることは普通なのだ。
「さ、桜……」
「なあに?」
「俺は桜とずっと話していたいです!」
「えぇ? 門限があるからそれまでには終わってほしいわ」
「そうじゃなくて! もっと話したいし、ずっと一緒にいたいから俺と付き合ってください!」
驚いたみたいに桜の目が丸くなる。
「……私のことが好きなの?」
「そう言ってる!」
「ふふっ、嬉しい」
「え……」
「この時間に幸せを感じていたのは私だけじゃなかったのね」
マシンガン からから @kirinomi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます