過大な過ち

異端者

『過大な過ち』本文

「許してくれ! あれはほんの気の迷い……一夜のあやまちだったんだ」

 そう言ってひざまずく私に、妻の目は冷たかった。

「あなたは……自分が何をしたか分かってるの!?」

 怒気を隠さぬ口調、穏やかな普段の妻からは考えられない声だ。

 妻には随分と贅沢をさせてきた。不平不満はないはずだった。それなのに……。

「ああ、分かっているよ。だが、過ちは誰しもあるだろう?」

 そうだ。人は誰しも過ちを犯す――私は間違っていない!

 妻の目は相変わらず冷たかった。

「確かにそうかもしれないわ……。でも、世の中には許される過ちと許されない過ちがある。もちろんあなたは後者よ」

 なんということだ。妻は私を決して許すつもりはないらしかった。

 しかし、私にはもう妻しか居ない。

「君の言う通り、許されない過ちかもしれない。……それでも、私にはもう君しかいないんだ!」

 そうだ。もう他には誰も居ない。

 妻を失ったら、私は本当に独りになってしまう。

 それまでは、私は多くの人間に囲まれていた。誰もが、私を称賛の目で見ていた――それも過去の話だ。


「昨晩、酔った勢いで『自国を含む全ての国に核ミサイルを発射せよ』と命じたことは謝る! だが――」


 私は某国の独裁者。そしてここは、核シェルターだ。

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