Starting On

Record.0

 某日、某全国大会にてそれは起きた


 コート上に何者も聞いた事のない打音が鳴り響いた


 既存の強豪校達、そして観客席に座る人々が沈黙した


 風が止まり、人の動きが止まり、そして時すらも死んだこの瞬間


 その場にいた全ての人々が声を出せず


 勝利とは、そして強さとは何かを突き付けられた


 誰もが他の追随を許さないその存在を見て


 畏怖の感情から手を震わせた


 世に云う「海生代の大躍進」の始まり


 常識を破壊する“打音鐘の音”を耳にした者達は絶望を抱いた


 高校テニス界史上最強と謳われた


 “ 海 将 ”


 影村義孝の出現だった




 全ての選手が黒い集団を見て絶望した。私もその一人だ。特に彼らの3年生時の迫力は凄まじい。“海将”影村、“天才”竹下、“トリックスター”高峰、“鉄壁”山瀬の4人、そして後ろに吉野、的場という未来の“歴代海将”が続いた。今思い出してもあの迫力に身震いが収まらない。こうして過去を思い出し筆を握っている時もそうだ。黄金期を迎えた海生代高校を前にした全ての高校生プレーヤー皆が、この時代めぐりあわせを恨んだ。そういう時代だったんだ。


   — 「回顧録 天才と呼ばれた男」より 著者: 矢留 誠二 —


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