第16話

「大丈夫じゃなさそうだけど。明日、休みをとれるようにしておくから、病院に行っておいで」

「はい」

 答えて、私は天を仰いだ。


「俺を幻覚扱いするだなんて!」

 カズはむっとした顔で文句を言って来る。が、私は必死に無視した。

 小会議室を出るとき、江上さんは扉を開けて私が部屋を出やすくしてくれた。


「ありがとうございます」

 そばを通り過ぎるとと、整髪料の香りがふわっと漂った。

 瞬間、吐き気がした。


「すみません」

 私は謝って、トイレにかけこんだ。

 もしかしてこれがつわり?

 私は思い切り吐いた。


 こんなの見られたら、カズになんて言われるかわからない。

 カズが幽霊になっても女子トイレに入る人じゃなくてよかった、と思った。




 なるべく自炊するようにしている。が、その日は作る気力がなくて、コンビニで弁当を買った。

「いつもは作ってるよね。写真とか見せてくれたし、俺にも作ってくれたし。疲れてるの? 俺が幽霊じゃなかったら作ってあげるのに」

 ぶつぶつ言う彼がうるさい。


 帰ってからレンジアップした。

 レンジの扉を開けて、そのにおいに吐き気がした。

 慌ててトイレに駆け込む。


「大丈夫? どうしたの?」

 うええ、と吐く私をカズは隣でおろおろと見守る。

 こんな姿見られたくないのに。


「たぶんストレスよ」

 きっとそうに違いない。そうであってほしい。

「まさか」

 彼が言葉を切った。


 お願い、気が付かないで。

 私はぎゅっと眉を寄せて床を見つめる。


「妊娠?」

 気付かれた。

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