第10話




 彼がなにかをするのではないかと見張っていたが、私に悪さをする様子はなかった。

 物を通り過ぎるのに椅子に座っている様子もなかなか矛盾する。どういう理屈なのか聞いたけど、彼にもわからないと言った。

 いつまでもこうしていても仕方がないし、濡れてべたべたして気持ち悪いし、私はシャワーを浴びることにした。


「お風呂入るから、帰って」

「やだ。ここにいる」

 駄々っ子のように、彼は言った。

 仕方なく、見ないでね、と言ってシャワーを浴びた。


 出てくると、彼はおとなしく座って待っていた。

 幽霊ならご飯は食べられないだろうから、自分の分だけ作って食べた。

 彼はうらやましそうに私を見ていた。試しに箸を渡そうとしたけど、やはりスカッと空振りをした。


 彼に電話をかけてみようかと思ったけど、勇気がなくてやめた。もし彼が出たら、目の前にいるのはいったいなんだというのか。幻覚? そんなの怖すぎる。

 でも、もし出なかったら……そのほうがもっと怖い。


 夜遅くなっても、彼は一向に出て行ってくれなかった。

 仕方なく、彼を放っておいて寝ることにした。


「寝てる間に変なことしないでよ?」

「変なことって?」

「変なことよ!」

 怒るように言って、私は扉を閉めた。


 どうか夢でありますように。

 そう願いながら、眠りについた。




 朝になっても彼はいた。

 うんざりしながら朝食を食べて、出勤する。

 空はどんよりと曇って、今にも降り出しそうだった。


 暇なのか、幽霊になったカズも憑いてきた。

 ふわふわと浮いたりちゃんと歩いたり、移動は適当だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る