第5話(終) 組織最強の手駒

 こうやって、キスをせがんで抱きついているのも。どうせ組織に見られているんだろうな。


 見ろよ。


 見せつけてやる。


 殺してやる。


 誰を?


 彼を?


「ねぇ。ほんとに」


「拒むなって」


 わたしがキスしたいからするんだよ。おとなしくしね。


「後悔するぜ」


「うるせぇ」


 キス。

 組織も、殺し合いも。彼自身のことさえも。ほんの少し、忘れて。とろける時間。彼の温度。


 そして。少し遅れて。


「うわぁぁ」


 さっきのアイスの味。


「だから後悔するって。同じアイス食ってんだから」


「ころしてやる」


「なんでだよ」


 彼のちいさな手を握る。やさしく。暖かい。この手に、背中をざっくりいかれたこともある。組織で集中治療して、なんとか治したやつ。刀みたいに、すごく綺麗に切れる。今は、普通の、ちいさな手。


「ころされるかな。わたし」


「え。アイスはあげないよ? 僕が食べます」


「要らんよ」


もう一度勢いでキスしようとして。いったんやめて。意を決して、もういちど。


「うぇぇ」




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アイスの味、殺しの可否 春嵐 @aiot3110

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