アイスの味、殺しの可否

春嵐

第1話 キルマシーン

 何も言わずに、彼女は出ていった。コンビニに行っただけなのか。しばらく帰ってこないのか。もう、戻ってこないのか。分からない。


 彼女の名前を、知らない。訊くこともなかったし、こちらも自分の名前を言ってはいない。


 不思議な縁だなとは、思う。思うだけで。それに追いすがってなにかを取り繕うことは、しない。彼女と、自分の間の、ほんのわずかに存在する、暗黙のルール。


 一般人。可も不可もない。たまたま昔なにかの懸賞で当たって、小さな一軒家を持ってる。特徴はそれだけ。

 彼女は、違った。最初に会ったときから、異常が服来て歩いてるみたいな状態だった。全身血だらけで。よろよろと壁伝いに歩いてたのを、たまたま見つけた。そこからの縁。


 彼女の身体の傷は、増えたり減ったりする。この前は背中に大きな切り傷ができてた。刀で切ったみたいな、ドラマとか映画とかみたいな、そんな傷。次に会ったときは、傷が消えてた。治ったらしい。治るんだな。ひとの回復力ってすごい。


 そんなわけないだろ。


 そう思いはするけど。思うだけで。何か変わりがあるわけでもない。彼女が治ったというんだから、治ったんだろ。たぶん。


 次、いつ帰ってくるだろうか。

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