『七星』のボスと印と異常事態 3


いたた……死神の名と同じで容赦ないなぁ」

「……貴方も十分本気でしたよね?しかもあの技……どう考えても人間に放つものではないかと」

「はっはっは!アタシは負けるのが大嫌いなんだ!」

「ボス……少しは反省してくれ」


英雄レベリアは豪快に笑うと、角砂糖をいくつか入れたカップに口をつけた。

先ほどの模擬戦?は私の勝ちとなった。

今は『七星』のホーム、その来客の間で休憩中。

正直、戦いの最中は感情が昂りすぎて後半の記憶が曖昧だが……勝ちは勝ちだ!

紅茶を一口。ジト目で英雄様を見つめる。


「約束、守ってくださいよ」

「あぁ。アタシは誰にも貴方のことを言わないと誓わせてもらうよ」

「今から……?」


やや引っかかる表現に疑問をこぼしたのも束の間。

軽いノックの後に部屋の扉が開き、美しい顔立ちの女性が入ってきた。

この顔……どこかで見たことが――あ。

急いでこの場を去ろうとする私を、レベリアはニヤニヤとしながら遮ってきた。この野郎……。

貴族のような女騎士は胸に手を当て、軽く頭を下げた。


「レベリア様。お呼び出しとのことで参りました」

「待ってたよー。もう少しでミサが帰っちゃうとこだったんだからね。ほら、後ろの二人も入った入った」


女騎士の後ろには美しい青い髪の小さな女の子。

もう一人は美しい翡翠色の髪を持つ少年。

間違いない……ギルド『七星』のメンバーだ。

シンを睨みつけるが、大きく首を横に振られた。

レベリアがコホンと咳払いをする。


「よし。全員いるね。まずは結界の維持をありがとう。おかげでミサの正体がバレずに済んだよ」

「なぁ、ボス。話は扉の向こうで聞かせてもらったんだが……ミサさんの正体を模擬戦中に俺たちにバラすのはよくないと思うぞー?やり方が汚い」

「……は?」


なにそれ……聞いてないんですけど。

ガックリと膝が折れ、私は両手を地面につく。


「あ……ミサさん、大丈夫か?」

「私の正体、バレたの……?」

「その……まぁ……えっと……うん」

「きゅう」


シンの力の抜けた頷き。あまりのショックに意識がだんだんと遠くなっていく。

終わった……私の夢の買取嬢人生が。

微かに聞こえた指を鳴らす音。同時に体が楽になり、朦朧としていた意識が少しずつ回復してきた。


「えっと、精神強化の魔法です。ご迷惑でしたか?」

「……ううん。助かったわ」


体を起こし、首をぐるりと回す。よし、問題なし。

再びソファに座り、レベリアに指を突きつける。


「で?この子達を呼んだ理由はなに?まさか私の目の前でお礼を言うため、じゃないでしょう?」

「もちろんだとも。アタシが実際に戦ってわかったこと、それを全て伝えようと思ってね」


レベリアは胸の前で手を合わせ、静かに語り始めた。



さて、まずは質問だ。

君たちは能力スキルを知っているかな?

あぁ、そうだ。

一般的には索敵Cとか治癒Bとか言われている。

まず初めに言っておくが……その呼び方は、本来の呼び名を隠すための隠語。つまりは正式名称ではない。

ギルドが真実を隠すために作った造語だ。

これから話すのは、普通の人は決して知ることがなく人生を終える裏の話だ。

この世界に存在する特殊能力は三つに分けられる。

今ではCランクと呼ばれているもの――これは能力スキル。そのままだ。

誰でも手に入れられる。誰でも使える。決して珍しくはない。日常生活で役に立つぐらいだ。

次はBランクと呼ばれているもの――加護かごだ。

アタシは索敵の加護。サルシャは治癒の加護。

シンは防御の加護みたいに、能力スキルとは別格の能力のことを指す。

言い忘れたが、能力スキルは加護には絶対に勝てない。下が上に勝つことは決してない。

ちなみに、アタシの風神の加護は武器に属性を付与するものなんだが……死神様には通用しなかったな。

つまり、ミサの特殊能力は加護の上に存在する。

アタシも最初は驚いたさ。ま、次の瞬間には首元に鎌が突きつけられていたけどね。

加護の上に存在する力は二種類に分けられる。

ひとつは天使の力――聖印せいいん

もうひとつは悪魔の力――烙印らくいん

前者は自分の行動をサポートし、後者は目に見える形で持ち主を手助けする。

つまり、死神が鎌を即時生成できる力は――そうだ。

アタシは昔、聖印と烙印について調べていたんだ。

はるか昔、歴代でも最強災厄の魔王に仕えていた悪魔の一体が持っていたのは、血が滴る大きな鎌。

ミサ、アンタはそれを受け継いじまったのさ。

無自覚にね。












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