『七星』のボスと印と異常事態 2


「もう目を開けていいぞ。転移魔法は初めてか?」


ゆっくりと目を開くと、そこはギルド本部内にある円形闘技場の中心部だった。

普段は初心者訓練用に使われていると聞いていが、今は私たち以外誰もいないようだ。


「誰か入ってきたりしませんよね?」

「人払いの結界は構築済みだ。あとは、アタシたちが全力で戦うだけ……いや待てよ」

「?」


何かに気がついたのか、レベリアさんは再び指をパチンと鳴らして転移魔法を発動した。

空中に青い魔法陣が展開され、見知った顔が転がり出てきた。


「し、シン!?」

「いたた……って、ミサさん!?なんでここに……」


なぜシンを――まさか、こいつが私の正体をレベリアにバラしたのか?

私が殺意を込めた視線をシンに向けると、あいつは全力で首を横に振った。

それを見たレベリアが大笑いする。


「はっはっは!おいおい、そんな目をするなよ。今回の件にシンは一切の関与をしていない」

「では、なぜシンをこの場に呼んだんですか?」

「いや、単に見届け人が必要だと思ってな。お前の存在が知られるわけにはいかないから、に頼んだわけだ」


レベリアは長い髪をかきあげると、空中から一本の剣を取り出した。

素晴らしい業物わざものなのは一目でわかるのだが、何かが付与されている様子はない。

もっとも、これはレベリアを知らない人の感想だが。


「……『無垢むくつるぎ』を最初から使うのは、少々やりすぎじゃないですかー」

「悪いな。お前を相手に余裕を見せるほど私は馬鹿じゃない。最初から全力でいかせてもらう」


レベリアの全身を纏っていた魔力が活性化。

手足を中心とした擬似的な鎧と化した。


「ミサさ〜ん。よく分かんないけど頑張ってください!」

「はいはい。近づきすぎると死ぬわよ?」

「んなっ!?ミサさんが俺の心配を……」

「もう少し前に来なさい。必ず手が滑って首を刈るわ」


私も一呼吸した後で大鎌を顕現させる。

相手は英雄。私程度が抗える存在じゃない。

でも……負けるわけにはいかない!!

シンが右手を上げ、高らかに宣誓する。


「お互いに健闘を――始めっ!!」


シンの手が振り下ろされると同時に、私は体を左に倒した。

微かに何かが頬を掠め、鋭い痛みが後から追ってくる。

頬を触ると、赤い血がべっとりと付いていた。

レベリアが驚きの声を上げた。


「……へぇ。起動式の斬撃を避けるか」

「不可視を忘れてますよ。死ぬかと思いました」

「感覚で避けるとか――化け物かよっ!!」


レベリアが地面をひと蹴り。

音すらも置いていく神速の一撃は鎌で弾き、追撃の雷魔法は大きく横に飛んで回避。

全く目で追えない……速すぎるっ!!

投げられた短刀ナイフを感覚で叩き落とし――脇腹に鋭い痛み。いつのまに懐に入られて!?

勝利を確信したレベリアがにっと笑った。


「貰った――」

「ミサさんっ!!」


首筋めがけて『無垢の剣』が迫ってくる。

あぁ、やっと……やっとだ。

やっと狙いがわかりやすい攻撃がきた。

私は鎌を投げ捨て、レベリアのを掴んだ。


「ふざ、けんなっ!!」


そのまま力任せに彼女を壁に向けてぶん投げる。

凄まじい衝撃が円形闘技場内に響き渡った。

膝に両手を置いて肩で呼吸をしていると、砂煙が取り払われた。


「……まだ、だ。アタシはまだ、倒れていない!!」

「いいよ……これで終わりにしてあげる!!」


私は大鎌を。彼女は剣を構える。

レベリアが詠唱を始めた。


さかずき構えし万雷の王。我が望むは銀狼の力。永遠とわに繁栄せし炎の都は今日、我が手によって風前ふうぜんの塵となる。にえは我が身。対の闇を呼び起こす者。あぁ、神よ。どうか私を導いておくれ――」


『無垢の剣』が翡翠色の神風を纏い、まっすぐ私に向けられる。

あれが噂に名高い龍を打ち取りし一撃。いや、復活した魔神を滅ぼした時だったかな?

頼む、私の体よ。作戦はない。とにかく耐えてくれ!!

大鎌を握り直し、目を閉じて軽く祈りを捧げる。

レベリアがカッと目を大きく開いた。


「貫け!『風神の覇王斬ヴァンデニアス・サルファイア』!!」

「負けるかぁぁぁっ!!」


私の想いに共鳴し、大鎌に漆黒の闇がまとわりついた。

もはや伝説上の武器と化した剣と漆黒の大鎌が火花を散らしてぶつかり合い、一進一退の攻防を繰り広げる――ん?

大鎌の闇がレベリアの剣にまとわりつき、『無垢の剣』を押し返していく。

動揺するレベリアは無視。このチャンスを逃す私じゃない!!


「いっけぇぇっ!!」


『無垢の剣』が根本からポキっと折れ、レベリアの首を私の鎌がとらえた。


「勝負そこまで!!」





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