第5話

ミラさんは僕の部屋に案内してくれるらしいが、流石にこの後も空間移動が一人でできないと空間に一人で取り残されかねない。

「ミラさん、この部屋に来た時はミラさんが手をを引いてくれて気付いたらこの部屋に来れましたけど一人で移動するにはどうしたらいいんですか?」

「…ああ。ごめんなさいね。説明していなかったわ。空間と空間の移動には空間の管理者からの許可が必要って言ったけど、もう一つ必要なのは移動する時にその空間のことを頭に思い浮かべることよ。その二つがそろっていると自分で移動が可能になるけど、初めは空間の入出許可をもらっている人の同伴が必要ね。今回は私が同伴したからって感じよ」

「なるほど。ありがとうございます」

「いいのよ。他にも気になったことがあれば聞いてくれて大丈夫よ」

僕はこの部屋に来た時と同じようにミラさんに手を引かれて空間の移動をする。やはり一瞬の出来事で気付いたら目の前の光景が変わっていた。僕の部屋らしいこの場所はミラさんが応接してくれた部屋とよく似ていた。違っていたのはベッドや机などの家具だけのようだ。

「ここがあなたの部屋になるわ。一通り家具はそろっているし、足りないものがあれば言ってくれたら支給するからね。」

僕は部屋をぐるりと見まわして一通りの内装を確認する。箪笥やクローゼットには今僕が来ているのと同じ真っ白な服が丁寧にたたまれて収納されている。僕は思っているよりも部屋にあるもの、そして機能は少ないように感じた。これでは本当に寝ておきてくらいしかすることができない。

「ここにある服の洗濯などはどうするんですか?それに食事やトイレなども」

「それなら心配ないわ。ここにあるものは全て汚れることがないから。その服もしわなどが起きないようになっているの。食事、トイレもそうね…私たちの体はものを食べて吸収することはないし、排出することもしない。さっきの紅茶もクッキーも食べるときに味は感じても基本的に私たちに消化器官はないからあの食べ物も体の中に残ることはないわね。」

僕は軽い衝撃を受けた。何となく思い付いたことだったがミラさんのその答えに僕は自分の知識に違和感を覚える。

「そうですか…なんか僕の知識ってあんまりここにきてから役立っていないような…」

「うーん…ずっと話していて思ったことだけど、あなたは何らかの生き物に関する情報を基準に知識が形成されているのかもね。私は全ての者の案内を務めているわけではないけれど、あなたのように生き物ベースの知識を持つ者は殆ど会ったことがないのよね。」

「ミラさんとか他の方は違うんですか?」

「そうね。何て言ったらいいか難しいのだけど、私を含めた多くの者はここの空間に違和感を抱くことがないのよね。けどこれは知識のあるなしに関わらずに私たちは皆そうだからあなたは知識だけでなく成り立ちから私たちとは違うのかもしれないわね」

「僕以外にそういった方はいるんでしょうか?」

「そうねぇ。正確な判断基準があるわけでもないし、私にもよくはわからないわ」

ミラさんはそういうと少し申し訳なさそうな顔をした。

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