反転する日常

stdn0316

第1話

 会社に行く前の朝、洗面台の鏡の裏に収納してあるドライヤーと寝癖直しを取ろうとすると、右手を上げたはずの自分が左手を上げている気がした。見間違えと気にしなかった。


 通勤電車の窓ガラスに映る自分が、通勤カバンを左右逆に持っていた気がしたが、よく見るとそんなことはなかった。


 会社のトイレで手を洗った後、鏡の中の自分が顔を上げるのが一瞬遅かった気がした。疲れているのだろうか、今日はそんなことばかりが気にかかる。


 スマホの画面が暗転した時、得意先に向かう道中に駐車してある車の窓、あらゆる場所に映る自分が一瞬でも何か妙な動きをしていないか、気になって仕方がなくなった。


 仕事でも些細なミスを連発し、注意を受けた。自席のモニターに映る自分の姿がどうなっているか不安でたまらなかった。


 結局就業時間まで仕事に身が入らず、同期との飲み会の約束も断って帰ることにした。このところ仕事がハードであったためゆっくり休むことにした。


 駅ビルの大きなショーウィンドウに早歩きで進む自分の姿が映る。なるべく見ないように視界の端で捉えるが、こちらを向いているような気がした。


 帰り道がこんなに長く感じたことはなかった。

 洗面台で手を洗う。気分を変えるために顔も洗ったあと、一瞬の気の緩みで鏡を見てしまった。


 自分が満面の笑みを浮かべていた。

 悲鳴をあげると、どこからか

「あ、やべえ」というこちらを馬鹿にしたような響きの半笑いの声が聞こえた。









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