十字架

村はずれの共同墓地。

まだ新しい、粗末な墓碑の前に、十字架を手にした少女が一人。

紺碧の空に、真っ白な夏雲。


「ちゃんと渡せたよ。受けとってくれたよ」


「皇太子さま、すごく素敵だったよ。背が高くて、金髪がきらきらして、マリアが言ってた通り左利きで──」


「じかに会えたんだよ。やさしい騎士さまがいて、皇太子さまのところまで、連れていってくれて」


「皇太子さまが言ってたんだよ。マリアに伝えてくれって。すごく嬉しいって。誇りにするって。マリアの作った花冠がすごく嬉しいって、本当にそう言ってたんだよ」


「よかったね、マリア。よかったね、よかったね……ほんとに、ほんとに、よかったね」


「すごく素敵な皇太子さまだったよ、絵姿よりずっと──」


「よかったね、マリア……マリア……」


泣きじゃくる声。

時を告げる教会の鐘。

紺碧の空に、真っ白な夏雲。




✿Fin✿

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

白詰草冠 りA @lia_22

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る