第15話 編む

カラオケ店を出た後、正体がわかった興奮がおさまらなくて七星に今から家に行くとメッセージを送り、向かった。


すんとした表情の七星に鼻息荒く自分の考察を滔々と語り終えた後「眼鏡曇ってるよ」七星が言った。


その後は無言の七星に、「ね、ね、どうしよう!」と問いかけても返事はなくて。


口を開いたと思ってからは私の考えとは全く違う“答え”をぽろぽろとこぼした。


「え……あ。そう……なんだ……」


確信を持っていたはずの答えだったがまるで違ったショックと、彼だったんだという衝撃で目の前がくらりと回った。

でも、じゃああの内容は?


「明日、返すよ」


「直接?」


「うー、うん。でも文化祭はちゃんと出るよ。それから軽音はやめる」


「いいの?」


「居る意味ないし」


「そっか」


じゃあね、と別れたあと少し欠けた月を見ながら帰路についた。



 その日私は初めて日記でも感想文でもない文章を書いた。

感情に近いことばを探して、美しいと思えることばをさがして、編んだ。

表記のしかたを、並び方を心地いいものにするために時間をかけた。

何度も言いたいけど何度も使うと重くて

重い気持ちもことばにすると軽くて

とても難しかった。


比喩表現が大袈裟で笑えた

素直になるとあまりにも大胆で恥ずかしくなった

稚拙で滑稽だけど、読み返すとそれは。

とても私だった。



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