朝起きて、いつものようにスマホをチェック。

まず見るのは、ティックトック、そして、あの子のアカウントだ。

えっ、これって卒業式の動画じゃん。

親に撮ってもらったのかな。

自分の高校の、自分も出ている卒業式の光景を、こんな感じで見るのって、不思議な感覚。

でも、この感覚って私だけで、私以外の人はあの子の体型が不思議なんだろうな。

制服を着ていても、そのブカブカ具合ではっきりとわかるガリガリの体。

コメント欄を見たら「ふくらはぎが卒業証書を入れる筒と変わらない細さだ」と言っている人がいて、それもあながち大げさではない。

「壇上から降りるとき、脚が折れて転げ落ちてしまうのではと、ハラハラしました」

というコメントもあって、たしかにそうだよね、と思ったり。

でも、とりあえず大丈夫そうだったよ、私、数メートルくらいの距離で見ていたから。

あの子とは一年生のとき、同じクラスだった。

当時は普通の体型で、痩せ始めたのは二年生の途中から。

三年生になる頃には今くらいになっていて、そこからはほとんど変わっていないと思う。

で、ティックトックのアカウントを見つけたのは三年生の５月。

見覚えのある制服、そして、体型だなって。

うちの学校、かなり特徴的な制服だし、あの子の体型もね。

ただ、アカウントを見つけたとき以上に驚いたのは、ティックトックで見せていた言動。

学校で私が知ってるあの子とは、まるで別人だった。

同じクラスだったときも、全然目立たなくて、口数も少なくて、気弱そうで。

もちろん、痩せ始めてからは注目されるようになったけど、性格は地味なままだった。

それがここでは、細い体をひけらかすように派手なコーデで踊ったり、ダイエット方法を得意げに教えたり、体重やサイズも堂々と公開したりしていて。

身長が159センチなのはともかく、体重は28～29キロ、ウエストは45センチで太ももは29センチとか、目を疑うような数字が並んでる。

おかげでフォロワー数もすごいことになっていて、当然ながら、アンチもかなりの数。

「拒食症だよね」とか「病院行けば」「ちっともうらやましくない」とか「もうすぐ死にそう」とか散々な言われようだった。

でも、あの子はまったく負けてない。

「今くらいの体重になってからはちゃんと食べてるし、いっぱい動くことでキープできてるので大丈夫」

「元気なので、病院なんて行きません」

「嫉妬上等ってことで、ＯＫ？」

「あなたも死ぬ気で頑張って見ればいいよ。太ってるのは甘えだから」

なんて言い返していて、ファンからは「いつもながら痛快です」などと拍手されてる。

あの、地味な子がホントにこの子？　みたいにな感じで、最初はちょっと信じられなかった。

ただ、ちょっと危険な細さなのは事実だろうし、ティックトックだけじゃなく、学校でも見てる私としてはずっと心配もしてたんだよね。

９月に体操服姿のあの子とすれ違ったときは、動画だとわかりにくい、肘とか膝とかの尖り方に、心をえぐられるような気がして。

それこそ、無事に卒業式、一緒に迎えられるのかな、なんて不安になったりしてた。

だから、今日はすごくうれしい。

あの子の卒業式の動画にも「おめでとう！」ってコメントしたいほど。

そうそう、じつはまだあの子にコメントしたことはなくて、去年の５月からずっと見る専状態。

杞憂だとは思うけど、万が一、同じ学校の同級生に見られてることがわかったら、ちょっとやりにくいだろうなって。

それであの子が「別人」でいられなくなったらかわいそうだし。

なんか、ここでの言動のほうが、ホントのあの子が出せてるんじゃないかなって気もするんだよね。

そんなわけで。

いつものように、心の中で「いいね」を押した。

あと、卒業して離れ離れになるけど、ここで元気な（？）姿をこれからも見せてね、という気持ちもこめて。