それを見たいけど、見たら死ぬ
田中おーま
第1話 そのパンツに呪われる
会社の同期の篠崎が俺の前でスカートを徐々に上にあげている。
「私のパンツが見たいって言ったら呪いが解けるんでしょ?早く言いなさいよ」
酒を飲んで大胆になったのか、普段のキャラとはかけ離れている。
言わないと死んでしまうが、言いたくない気持ちも出てきて俺佐藤健太は困り果てた。
――――どうしてこうなった?
篠崎のパンツを見ると死ぬという呪いにかかったのは数日前に遡る。
◇
「もう!本当に信じられない!」
ビールのジョッキを荒々しく机に置くのは、同期の篠崎和香奈。
彼女は童顔で胸もそこそこ大きく、くびれた腰に大きなお尻が非常に魅力的だが、1年付き合った彼氏に浮気をされて、やけ酒をしている。
「もう、その辺にしておいた方が…」
遠慮がちに酒を止めるのは俺、佐藤健太。アメリカでいうジョン・スミスのような名前だ。
篠崎とは同じ部署で、たまに酒を付き合わされる。今日も無理やり居酒屋に連れてこられた。
「ちゃんと私の話を聞いてよ!」
ビールを喉に流し込み、空になったジョッキを机に置いた。
「すいません!生ジョッキでお願いします!」
店員に声をかけようと篠崎が手を上げたとき、机に置いてあった箸が床に落ちてしまった。
「あーあー」
篠崎は気付かないようで、俺は拾おうとしゃがんだ。
箸を見つけると、俺はフリーズしてしまった。
篠崎はスカートスーツにも関わらず足を開いている。
俺の角度からは見えないがもう少し身体をずらせばパンツが見えるだろう。
だが、俺は紳士だ。そんな真似はしない。
「箸、落としてたよ」
俺はさりげなく新しい箸を篠崎に渡す。
「ええ?落ちてた?ごめんね、気付かなかった」
悪びれもせずに謝る篠崎に、俺は注意してあげることにした。
「スカートなのに、脚広げるなよ。見えるよ?」
「ふーん、そんなこと言ってみたんでしょ?」
「…篠崎のパンツに興味ない」
嘘だ、だが俺は紳士なんだ。
「そんなこと言って、あるんでしょ?」
「ないね、見るくらいなら死んだ方がましだ」
嘘だ、本当は見たい。
「ふーん…。」
篠崎は挑発的な顔で、机にあった焼き鳥を俺の方に向けぐるぐると催眠術を掛けるように回し始めた。
「私のパンツを見たら死ぬー。私のパンツを見たら死ぬー」
「おい酔い過ぎだぞ」
俺は焼き鳥を篠崎の手から奪い取り、頬張った。
「ちょっとは興味持ってくれてもいいのに…」
「はあ…。次のビール飲んだら帰ろう。明日も仕事だしさ」
俺は手元に残っていたビールを口に含む。
「ええー!もうちょっといいじゃん!」
「明日社内会議だろ?居眠りしても知らねえから」
篠崎は拗ねたように膨れる。
何とか篠崎をなだめて、タクシーに乗せた。
俺は徒歩30分かけて、自宅にたどり着く。
寝る準備をしてベッドに入り、今日の出来事を思い出す。
焼き鳥で呪いをかける篠崎、かわいかったな…。
そう、俺はずっと篠崎を一人の女性として意識している。しかし、臆病な俺は関係性が壊れるのを恐れて、入社して3年経っても何もできないでいた。
彼氏と別れた今ならチャンスはあるだろうかと思いながら眠りに付いた。
◇
白い空間をただ歩いていた。感覚的に夢なんだろうと思う。
「おいお前!」
後ろから急に怒鳴られて振り返ると、そこにはイチゴ柄のパンツを被った変態がいた。
肌着に腹巻、かぶっているパンツから大量の髪の毛が出ているのが非常に気持ち悪いおじさんだ。
夢だからと腹を括って、変態と対峙する。
「なんでしょうか?」
「可愛い女の子のパンツが見たくないと嘘を付くな!」
「…あなたには関係ないでしょう」
「ある!なんたってわしはパンツの神様だ!」
…俺はこんな夢をみるということは疲れているんだろうなと思った。
「お前は疲れてこんな夢を見ているのではない!」
「わしを怒らせた罪を償え!」
変態は俺に手をかざすと、突風が吹いて思わず目を閉じる。
「わははは!呪いをかけてやったわ!」
「呪い?」
「お前は篠崎ちゃんのパンツを見ると死ぬ!」
「はあ?」
「呪いを解きたければ、篠崎ちゃんにパンツを見せてくださいと懇願するのだ!」
「おい!ふざけるな!」
俺は変態につかみかかろうとしたが、目が覚めたようで、いつもの部屋で空を掴もうとするだけになった。
鳴り響く、目覚まし時計を止めると、変な夢を見たせいか疲れが出てくる。
重い体を起こして準備をした。
◇
歩いて出社すると、篠崎が歩いているのが見えた。
パンツスーツの彼女を見ると、俺は無意識に安心した。
階段に差し掛かり、少し前を行く篠崎を見上げる。
彼女は太ってはいないが、ちょうど良い肉付きをしていて、無意識に視線がお尻に行ってしまう。
俺は紳士だ!いけない!と思って目を逸らそうとしたとき、気付いてしまった。
階段を上がる度にパンツの線が見えている。
俺はそれに気付いた瞬間、急に左胸が痛くなった。
「うっ!」
あまりの痛さに目を閉じると、痛みが引いてきた。
俺は夢を思い出して、再度篠崎のお尻に目を向ける。
「うっ!うっ!」
パンツの線を見る度に、左胸が痛くなる。
俺は痛みに耐えながらも、この事象を検証するために篠崎のお尻を凝視する。
これは検証のためだ。仕方がない。
篠崎が階段を登り切り、パンツの線が見えなくなると、胸の痛みは引いていった。
俺は本当に呪われてしまったのだろうか…?
パンツの線でこの痛みならば、直接見たら死んでしまうかもしれない。
今日はパンツスーツなので、見ることはないだろうと安堵したが、俺は昨日のことを思い出す。
彼女は無防備だ。スカートでも足を広げてしまうくらいに。
篠崎がスカートを履いて、パンツ視界に入ってしまったら、俺の人生はゲームオーバーだ。
俺は即死を回避できるのだろうか…?
俺はオフィスに入り、篠崎の後ろを通って、自分のデスクに向かおうとする。
篠崎は落とし物をしたらしく、椅子に座ったまま下をのぞき込んでいる。
「うっ!」
俺はその様子を見たが、急に胸が苦しくなった。
前かがみになって、シャツがまくれ上がり、下に履いているであろうストッキングが見えている。
ストッキングでもここまでの威力!?
俺は視線を逸らし、自分のデスクに座り一呼吸した。
俺の死亡フラグ多すぎない?
――――
お読みいただきありがとうございます。
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